米国Morningstar2年に一度の投信投資家環境レポート2/3
情報開示
前回は「C」で下から3番目の評価だったが、今回も同水準で「平均以下」となって、4つのセクションの中で最も低グレードだった。顧客本位のよりわかりやすく、より完全な情報開示が大幅に前進するよう、監督機関の更なるリーダーシップが期待されるとのコメントがあった。具体的には、一般的な投資家が理解するには、交付目論見書はまだ少し長くて厚く、扱いにくい。個々のファンド特有のリスクについての情報が不十分なケースも多く、(特にファンド・オブ・ファンズなどにおいて)コストの説明が理解しにくく、またコストの表示について率による表示のみで金額に置き換えたものが無いことが指摘された。たとえば100万円購入すると販売手数料が3万円、100万円の純資産に対して保有期間中の費用が1万8000円など、額で例示してあると分かりやすいというのである。日本の場合は、率の計算をほとんどの国民ができるとの判断もあろうが、検討してもよいのかもしれない。運用報告書は、信託報酬以外のコストや投資対象ファンドの費用も含めた「総経費率」の記載、ファンドマネジャーの氏名、当該投信についてのファンドマネジャーの運用年数の開示がない。また、グローバルには月次で保有銘柄が電子的に開示される潮流になりつつあるが、日本では年1回または半年に1回の文書による開示義務があり、多くの運用会社がそのミニマム・スタンダードを遵守しているだけだ。開示頻度を上げ、電子開示を進めて投信評価の向上に貢献するなどの積極的な取り組みがほとんどないため、保有銘柄情報の開示までの日数では25ヵ国中22位だった。運用報告書は投資家と運用会社を結ぶ重要なコミュニケーション手段だ。法規制に則ってとにかく投資家に渡せば良いというものではない。投資家が知るべきこと、今後のファンド保有を継続するか否かの判断に必要な情報を「理解できる言葉やデータ、図解」などで提供すべきであり、そのための努力を積み重ねる必要がある。運用報告書の改善について、アイディアはあるがデータ管理システムから独自の形で情報を取り出すには改変のコストが高く、工夫を活かしきれない状況もあると聞く。部分的に他のシステムや素材を活用することもできよう。また、一般的な投資家が本当に理解できるのか、実際に普通の人々に読んでもらうなどの検証をして、分かりやすい開示へと改善していくと良いのではないか。
コスト(手数料および費用)
前回調査で最も低く「D+」の評価だったが、今回は「平均並み」に向上した。海外で販売手数料の禁止や、クリーンシェアなどノーロード化が進む中で、日本では販売手数料を徴収する投信がまだ一般的だ。ただし、ラップやSMA口座の拡大、低コストのパッシブ投信の増加やネット証券向け
投信などノーロードの投信が増加している。
本評価は「販売手数料上限」を参照しており、実態としてインターネット経由の取り引きなどでノーロード化はもっと進んでいる。販売手数料が自由化されている環境で、「どのファンドがどのチャネルではノーロードで購入可能か」は投資家にとって非常に重要な情報である。販売手数料については、目論見書またはホームページ上に販売手数料の上限だけでなく、無手数料で購入できるかどうか、購入できる場合の金融機関名を記載するなど、より投資家本位の情報開示が必要だ。この記載が無いこと自体が、運用会社の「顧客」として販売金融機関への配慮の方が最終投資家である個人の利便性より優先されているように見える。
評価が上がった要因はいくつかある。まず、株式に投資する投信の信託報酬の中央値が前回に比べて低くなったことだ。ただし、この集計には日本特有の問題がある。外国籍投信は運用報酬の上限を参照しており、ファンド・オブ・ファンズなどの費用が含まれていないため一部のファンドは実際よりかなり低めに見える。実際には保有コストがほぼ倍になるケースもある。一方で日本籍投信はファンド・オブ・ファンズの投資先ファンドの費用も含めた概算の上限値を参照しているため、実際より高めになる傾向がある。こうした問題は日本籍・外国籍を問わず全ての投信について、運用報告書で実際にかかった費用の概算による「総経費率」が開示されればスッキリする。投資家が投信を比較する際にも有用な情報だ。同一基準の開示が困難だとすれば、ファンド・オブ・ファンズの多用(日本籍追加型株式投信の3分の1以上を占める)について、今一度考えてみる必要があるだろう。
外国籍投信には日本で購入可能な海外の巨大なETFも含まれており、国内で販売された純資産ではなく世界全体の純資産額で加重されるため、コスト低下のインパクトが非常に大きいが、これは他の国においても同様である。
米国、英国、オーストラリア、スペイン、南アフリカをはじめ、保有コストのアンバンドリング(外形化)が進む各国では、投信の保有中のコストは運用関連費用のみが参照される。これらの国々では、ファンド管理・顧客管理に必要なデータ管理システムの使用料や、アドバイザーに支払う費用など、保有中に別建てで必要な費用があるが、それらは評価時に参照されていない。日本の一任口座(ラップ、SMAなど)やDCの口座管理費用がファンドの保有中のコストに反映されないことに似ている。投資家にとって、何のためのコストなのかを理解する上では、「アンバンドリング」化は歓迎すべき流れである。一方で、日本の「信託報酬」(FoFsを除く)は一括表示されていることで個々の投信の保有コスト総額を概算で把握でき、比較しやすいというメリットがある。ただし、他のコストを合算しても米国やオーストラリアの保有コ
ストの安さには日本は劣後しており、今後も低下圧力は大きいだろう。