バンガードの手数料引き下げはごくわずかだが、投資家にとっては勝利だ

【インベスティング・インサイト】 モーニングスターのスタッフが解説する手数料引き下げの背景と本質

2025年2月3日、バンガード社がその50年の歴史上最大規模となる87本(168のシェア・クラス)におよぶファンド・ETFの手数料値下げを発表した。2024年末の純資産で見ると、同社のファンドとETFの資産の4分の1にあたる。引き下げ率は0.01%(1ベーシス・ポイント)などごくわずかではあるが、投資家にとって良いニュースであることに違いない。

 

 

イバンナ・ハンプトン:モーニングスター リード・マルチメディア・エディター  

ダン・ソティロフ:モーニングスター・リサーチ・サービス シニア・マネージャー・リサーチ・アナリスト

 

 

イバンナ・ハンプトン:「インベスティング・インサイト」へようこそ。ホストのイバンナ・ハンプトンです。

バンガードといえば、低コストの投資商品の提供者だと投資家はすぐに連想するでしょう。世界第2位の運用残高を誇るこの資産運用会社は今週、歴史的な値下げを敢行しました。約90本のミューチュアル・ファンドと上場投資信託の経費率を引き下げたのです。

コスト引き下げファンドのリストには、人気のあるパッシブ・ファンドやアクティブ運用のファンドも含まれています。これはバンガードの顧客や競合他社にとって何を意味するのでしょうか?

モーニングスター・リサーチ・サービスのシニア・マネージャー・リサーチ・アナリストで、バンガード社を担当しているダン・ソティロフに彼の洞察を聞いてみましょう。

 

2025年、バンガードの手数料引き下げ

 

ハンプトン:バンガードの手数料引き下げについてのニュースを、どう思われましたか?

ソティロフ:総合的にみると、圧倒的にポジティブに見ています。特に(投資家に寄り添う)モーニングスターのアナリストとしては、手数料引き下げは大歓迎で、今回のバンガードの決断は良いことだと思います。資産運用会社が最終的に顧客にお金を還元していることを、可視化できる方法だからです。実に素晴らしいことです。

さて、ここで少しニュアンスを整理する必要があります。まず、今回の手数料の引き下げは、個々のファンド(シェア・クラス)レベルで見るとかなり控えめなものです。引き下げ幅の中央値は約1ベーシス・ポイントでした。資産加重で計算すると、シェア・クラスあたり2ベーシス・ポイント弱になると思います。つまり、今回の手数料引き下げはドラマチックに人生を変えるような金額ではなく、個人投資家レベルでの影響はかなり小さいものです。

むしろこの決定の本質をより明確に示しているのはバンガードの収益の方で、おそらく同社は今年3億5000万ドルもの収益減に見舞われると思います。考えてみてください、この打撃は翌年以降もずっと続きます。つまり、これはバンガードが投資家に還元するために、実質的に永久に手放した収益なのです。この観点では、同社の決断は普通に見れば前向きな合図だと言えます。

 

バンガードはなぜ今、手数料を引き下げたのか?

 

ハンプトン:バンガードは従来から低コストで名を馳せています。なぜ今、敢えて手数料を引き下げたのでしょうか?

ソティロフ:そこがひとつの論点です。Morningstar.comに寄稿した記事の中で、このことを示唆しました。まず、ここ数年バンガードは大きな成功を収めています。スーザン・ジウビンスキー(モーニングスターの投資スペシャリスト)と話していたとき、昨年は2220億ドル前後のネットフローがあったと言っていたと記憶しています。過去3年間を見ると、その数字はさらに大きく、5300億ドル強といったところでしょうか。

つまり、バンガードは大量の収益を得ており、市場が上昇しているため運用している資産も大きく増えているのです。ですからバンガードの決断に見られるように、この間の増収分を投資家に還元している部分もあるのでしょう。

また、このニュースの背景にある事情を見る必要があります。ここ数年、バンガードはいくつかの過失を犯しています。幸いなことに意図的な失敗ではないと言っていいと思います。詰まるところ彼らも人間であり、ミスを犯すこともあるのです。しかし、そのせいで逆宣伝をされており、さらに、最大の競争相手の一社から人を雇い入れて会社を運営させたことで、頭上に暗雲が立ち込めています。

では、バンガードはこの50年間、私たちが慣れ親しんできたバンガードであり続けるのでしょうか?愛すべきバンガードは変わらずに続くのでしょうか?

幾分かは、そうした疑問に答えるため、いわば顧客からの好感をつなぎとめるための対策でもあったのかもしれません。いちゃもん屋にはなりたくありませんが、アナリストとして私はそれを見過ごすことはできません。

しかし、いずれにせよ、これは素晴らしい方法でした。投資家に(合計すれば)本当に大金を直接還元することは、実に良いシグナルを送ることになります。

 

経費率の安い注目すべき6つのバンガード・ファンドとETF

 

ハンプトン:そして、視聴者の皆さんにショーノートをお見せしましょう。ダン、あなたとスーザン・ジウビンスキーが2025年のバンガードの展望について話していましたね。ではダン、新たに経費率を引き下げた87本のファンドのうち、特筆すべきファンドについて話していただけますか?

ソティロフ:スーザンと一緒に撮ったそのビデオの中で、私たちは代表的なファンドなので「バンガード・プライムキャップ」(VPMAX)について話しました。こうしたファンドの中には、1~2ベーシス・ポイント手数料が下がったものもあり、「バンガード・プライムキャップ」(VPMAX)、「バンガード・プライムキャップ・コア」(VPCCX)、「バンガード・キャピタル・オポチュニティ」(VHCAX)など3ファンドがそれに当たります。

その他に私が見ていたのは、本当に大きなETF、幅広い市場に投資するタイプのETFです。「バンガード・FTSE先進国市場ETF」 (VEA)の手数料は半減しました。「バンガード・トータル・インターナショナル・ストックETF」(VXUS)は8ベーシス・ポイントから5ベーシス・ポイントに下がりました。そして、ファンの多い「バンガード・ディビデンド・アプリシエーションETF 」(VIG)は、6ベーシス・ポイントから5ベーシス・ポイントに下がりました。

なぜこれらのETFを取り上げたかというと、これらのETFは幅広い市場に投資するETFであり、他社の商品と手数料で競合しているからです。ですから手数料の値下げ、特に半額にもなるものがあるのは大きな一歩です。

ハンプトン:そのリストの中で、あなたが保有しているものはありますか?

ソティロフ:あります。「バンガード・FTSE先進国市場ETF 」に投資していますし、「バンガード・ディビデンド・アプリシエーションETF 」も持っています。

 

バンガード、債券ファンドの検討を投資家に示唆

 

ハンプトン:かなりの数のファンドで手数料の引き下げが決定されましたが、中でも債券を投資対象とするファンドが多数を占めました。ダン、これはどういうことでしょうか?

ソティロフ:全リスト(約90本)のうち、約62本が債券ファンドだったと思います。株式に重心がかかっているバンガードの資産構成から考えると、ちょっと偏っていますね。ジェフ・プタクが彼のニュースレターで実にうまくその件をまとめていました。バンガードの資産を見ると、株式80%、債券20%といったところでしょうか。

サリム・ラムジ氏(バンガードCEO)はウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューでこのことを取り上げていました。彼は、バンガードの資産構成から推察できる投資家のポートフォリオが、もう少しバランスよくなることを望んでいます。

それは理にかなっていると思います。市場は大きく上昇しており、おそらく割高な水準にあると言えるので、(投資家の株式に偏ったポートフォリオは)リスクがやや高くなっています。だから、人々にもう少し債券などのより安定した資産を保有するように促すのは、それほど悪いことではないのかもしれません。

もうひとつは、バンガードのビジネス面での視点です。より多くの人が債券ファンドに投資することによって、同社の預かり資産ベースの手数料(運用等手数料)収入が今より安定するでしょう。投資家にとっても、バンガードにとっても、双方にメリットがあることだと思います。

バンガードの新CEOはブラックロックに手数料引き下げの圧力をかけているのか?

ハンプトン:バンガードの新CEOサリム・ラムジ氏は就任して半年以上経ちますが、彼はそれ以前にはブラックロックの役員を務めました。彼はかつてのボスたちに多少のプレッシャーをかけているのでしょうか?

ソティロフ:その可能性はあります。今言ったETFの中には、彼の元の職場のETFと直接競合するものもありますから、そう考えるのは自然なことですし、そういうこともあるかもしれません。

しかし繰り返しますが、手数料の引き下げはまったく大きな額ではありません。ブラックロックやiシェアーズのETF、バンガードのETF、そしてステート・ストリートのETFも同様ですが、手数料の引き下げはごく小さなものです。わずか5ベーシス・ポイントしか徴収していないのに、10ベーシス・ポイントの引き下げを行うのは無理な相談で、不可能なことです。ですから、プレッシャーということも多少あるかもしれませんが、顧客に示す好意として、一日の終わりに実際に顧客にお金を返すということだと思います。

 

業界の「手数料最安値」競争が再燃したのか?

 

ハンプトン:超低コスト(手数料)ということについて、話を続けましょう。バンガードは、いわゆる「手数料最安値」という競争に火をつけて、ファンド業界を巻き込もうとしているのでしょうか?

ソティロフ:多くのメディアからよく聞かれる質問です。大きな疑問は、数年前のような手数料競争が再燃するのではないかということです。そのような中で、多少、手数料の格差が生まれたと思います。その良い例として、先ほど世界に幅広く投資を行うETFの話が出ましたが、これらにおいてバンガードのETFと競合他社との間に2~3ベーシス・ポイントの格差が生じています。このような他社の同種のETFでは、手数料引き下げという反応が見られる可能性はあります。(2月5日の朝10時45分時点では)まだ何も起きていませんが、私たちは注目しています。でも、おそらく引き下げといっても、競合他社が以前のバンガードの水準程度まで手数料を下げるといったところではないかと思います。

 

ファンド手数料の引き下げが長期的にバンガード投資家にもたらすもの

 

ハンプトン:なるほどダンの見立てはもっともかもしれません。バンガードは今年、顧客が3億5000万ドルの節約になると言っていますが、それによる減収を同社は甘受するとおっしゃいましたね。投資家の皆さんは、その節約分がポートフォリオにどのように反映されるのか気になるところでしょう。手数料の引き下げが長期的に顧客にとってどのような意味を持つのか、話していただけますか?

ソティロフ:当たり前のことですから、おそらく多くの皆さんが知っていることだと思います。手数料が低いほどトータル・リターンは高くなります。しかし、先ほども申し上げたように、1~2ベーシス・ポイントは人生を変えるような金額にはなりません。

もっと大きなことは、クリスティン・ベンツ(モーニングスター個人金融担当ディレクター)がいつも話していることだと思います。長期投資であれ、アクティブ投資であれパッシブ投資であれ、まず、どれだけの資金を投資に振り向け、そして手数料の安い投資に参加するか、ということが重要です。それがリターンを大きく左右します。そして長期的な習慣、つまりそのようにして投資を続けることこそが、本当に大きな成功の原動力になるのです。

そうすることができれば、ほんのわずかな値下げでも、素晴らしい結果につながるでしょう。私は手数料の引き下げに決してノーと言うつもりはないけれど、それだけでは非常に小さな恩恵であり、人生を変えるようなお金ではありません。

 

バンガードが顧客を維持し、さらに拡大する方法

 

ハンプトン:顧客を満足させ、新たな顧客を獲得するために、バンガードが他にすべきこと、取り組むべきことは何でしょうか?

ソティロフ:的を射た質問です。バンガードは新規顧客を獲得することに何の問題も抱えていません。彼らが素晴らしい仕事をしているのは明らかです。その多くは長い時間をかけて構築されたもので、良質な、そして手数料の安い投資商品をたくさん提供しています。だから、バンガードは勝ち続けていますし、資産運用業界全般から羨望の的となっています。

顧客サービスの面では、まだ悪いイメージがあると思います。私は4月に彼らを訪問する予定ですが、その際にぜひとも確かめたいことのひとつで、いくつか質問するつもりです。人々が持つイメージと実態を区別するのは難しいことです。確かにいくつかの問題はありましたが、どの程度すでに修正されているのかは、世間に説明するのが難しいことでもあります。

また、多くのテクノロジーを今風に改善する過程も続いています。アプリケーションやオンラインのインターフェースなど、実際に変化が起きており、いくつかの改善が見られます。ですから、彼らが前進しているのは明らかです。この改善プロセスは道半ばですが、それについても4月に訪問したときにもう少し詳しく知ることができたら興味深いと思います。ですからこの件も私の質問リストに入っています。

ハンプトン:分かりました。さて、ダンの記事からバンガードの手数料が引き下げられた全ファンドのリストとその金額を、ご覧いただけます。ご参考になれば幸いです。ダン、貴重な話をどうもありがとうございました。

ソティロフ:どういたしまして、お招きいただきありがとうございました。◇

 

  • インタビューに登場する人物は、本稿で言及されている投資商品のうちいくつかを保有しています。モーニングスターの編集方針についてはこちらをご覧ください。
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