<ファイナンシャル・アドバイザー> マイケル・キッチェス氏が語る:ファイナンシャル・アドバイザーが知っておくべき5つの潮流

そして、アドバイザーが競争力を維持するために自身に問いかけるべき1つの問い

 

 

ゲスト: Michael Kitces ファイナンシャル・プランのブログ「Nerd’s Eye View」/ ニュースレター「The Kitces Report」 newsletter for IMCA and CFP

 

聴き手: Danny Noonan シニアインベストメントライター 投資家向けコンテンツ/ エディトリアル

<アドバイザーのメンター、キッチェス氏とは>

 

 

野球の話になるとニューヨーク・ヤンキースがすぐに挙がるのと同様に、ファイナンシャル・プランニングについての話題になるとマイケル・キッチェス(Michael Kitces)氏の名前がすぐに頭に浮かびます。自ら「チーフ・ファイナンシャル・プランニングおたく」と称するキッチェス氏は、ファイナンシャル・プランニングの知識のワンストップショップとしてファイナンシャル・アドバイザーたちの間で熱心なフォロワー層を築いています。

 

 

まるでファイナンシャル・プランニングの図書館のような彼のウェブサイト(Kitces.com)は、この分野におけるあらゆる情報を網羅しています。アドバイザーのビジネスモデル、報酬体系、顧客獲得、アドバイザリー事業の継承計画など、キッチェス氏は広範に及ぶ知識を持っているため、アドバイザーたちは彼の意見をよりどころとしています。

 

 

キッチェス氏はアドバイザーがより優れた成果を上げ、大きな成功を収めるために大いに貢献してきました。だからこそ、6月に開催された「モーニングスター・インベストメント・カンファレンス」で彼に登壇をお願いしたのはごく自然の成り行きでした。彼は、カンファレンスにおいて、現在のアドバイス業界に影響を与えている5つの注目すべき潮流について取り上げました。

 

 

<5つの潮流とアドバイザーが答えるべき1つの問い>

 

 

  1. テクノロジー: 「テクノロジーが直接的にアドバイザーに大きな変革をもたらすのではありません――変化はそのテクノロジーを取り入れて自分の仕事に活用することで起こります。テクノロジーによってアドバイザーが仕事の一部を自動化することで、他の優先度の高い行動に集中できるようになるのです。」とキッチェス氏は言います。

 

 

  1. 大いなる収斂(Great Convergence): 規制の改革によって利益相反が生じにくい報酬体系が確保されるようになっており、ほとんどのアドバイザーが同じビジネスモデルに移行しています。

 

 

  1. 差別化戦略の危機: アドバイザーが、競合するアドバイザーとどう違うのかを説明するのは難しいとされています。キッチェス氏は、「これが今日、新しい顧客を獲得するのが難しくなっている理由です。顧客はアドバイザーを区別できず、誰が誰なのか分からないのです」と言います。

 

 

  1. 新しい事業モデルの探求: アドバイザーたちは同じ顧客を奪い合っています。その結果としてアドバイザリー会社の合併・買収活動が増加しています。

 

 

  1. 顧客体験: 顧客のために価値を創造することが最も重要です。そして、アドバイザーが創造した価値を、顧客が認識することがさらに重要です。キッチェス氏は、同じ特性を持つ顧客に特化して業務を展開することを薦めています。

 

 

キッチェス氏は、講演の終わりにアドバイザーに対して一つのシンプルな質問を投げかけました。

「問題を抱えてオンラインで検索する人に、あなたこそが自分が求めている人だと言われるために、この先10年間でどの分野を極めようと思いますか?」

 

 

モーニングスター・ウェルスの最高投資責任者フィリップ・シュトレールは、6月27日にシカゴでキッチェス氏と対話をする機会があり、これらの主要なテーマについてさらに詳しくお話を伺いました。アドバイザーがどのように差別化を図っているか、テクノロジーの果たす役割、アドバイザリーサービス業界における金融商品販売からアドバイスへのシフト、ダイレクトインデックス、そして、競争の激しい市場で際立つ存在でいるための専門性や得意分野を深めることの重要性が増していることなどが取り上げられました

(※ 以下はそのときのインタビューを編集したものです)

 

 

<差別化について>

 

 

フィリップ・シュトレール: あなたは、講演でファイナンシャル・プランニング業界の5つの主要な潮流を取り上げていました。今後5年間で、その中でどれが最も強い影響を及ぼすことになるとお考えですか?

 

 

マイケル・キッチェス氏(以下敬称略、キッチェス): 差別化です。顧客ニーズが非常に大きい分野です。その要望に応えるべく、差別化のために業界がどのように変化していくかを見るのは興味深いことです。本質としては、より多くのアドバイザーが専門分野を持ち、ニッチな分野に進出し、個々の顧客への最適なアドバイスに焦点を当てるさまざまな方法を追求し始めたときに、一体何が起こるのかということです。業界全体を見ると、アドバイザーの70%以上が「平均以上の優れた顧客サービスを通じて差別化している」と言っています。しかし、70%のアドバイザーが「平均」以上であることは数学的にはあり得ませんよね。

 

 

今日業界を見わたすと、アドバイザーは金融商品の販売からアドバイスの提供へと、足並みを揃えて移行してきたことが分かります。私はアドバイザー諸氏が頭に詰め込んだ知識を「棚」に並べていると冗談を言います。それはまさに今、私が販売している「棚」であり、棚にあるのは商品ではありません。私が提供する「価値」は金融商品ではなく、アドバイスを中核にして形成されています。

 

 

業界も追いつきつつあります。CFP(認定ファイナンシャル・プランナー)の数は10万人を超え、数は増え続け、増加の勢いは増しています。CFPボード(CFP資格認定委員会)はこの12ヵ月間に過去最大級のCFPを輩出しました。最初のCFPが誕生してから51年目の新記録です。これはCFPの採用が今になって急成長でS字カーブを描いていることを示しています。

 

 

こうしてアドバイスの提供が主流になり、その勢いは増すばかりです。業界に新しく登場した「参加者」は注目に値します。Merrill Lynchは基本的に巨大なRIA(登録投資助言業者)であり、VanguardはRIA部門に700人のアドバイザーを擁しています。SchwabやFidelityも巨大なRIA部門を持っています。Merrill Lynch、Schwab, Fidelity、Vanguardなど金融商品の組成・販売に携わっててきた巨大企業が、顧客本位規制強化のもとで、アドバイス業務の最前線に立つことになると、いつ想像できたでしょうか?もっとも今起こっていることは、沈みゆくタイタニック号の甲板でデッキチェアを並べ変えるように、業界が大きく変化する中でワイヤーハウスをはじめ巨大な金融機関が浮足立って生き残り策を講じているだけなのかもしれません。

 

 

ですから、実際にどうやって差別化を図るかには、ありとあらゆるプレッシャーが生じます。医療、法律、会計などほぼすべての職業に専門化モデルは存在しています。ジェネラリストよりもスペシャリストの方が報酬が高いのです。

 

 

シュトレール: 最近の専門化に関して、ご存じの良い例はありますか?確か5年以上前だったと思いますが、あなたはポッドキャストでバス釣り愛好家に特化したアドバイザーについてお話しされていましたね。

 

 

キッチェス: それは今でも私のお気に入りの話です——あのアドバイザーは今も同じやり方を続けており、それは素晴らしいことです。でも端的に言うなら、「何でもあり」だということです。ごく基本的な経験則から言えば、アドバイザーは50人の理想的な顧客を持つことで大きな成功を収めることができます。私たちの多くは、望ましくない顧客も引き受け、顧客の数を増やし、そして顧客を手放すことに罪悪感を覚えながら稼ぎ続けてきました。しかし、単純な計算では50人の理想的な顧客がいれば十分で、多くのアドバイザーは50人以下でも成功しています。

 

 

したがって、少数の素晴らしい顧客がいて、彼らがあなたのアドバイスに対してお金を払う十分な経済力がある限り、ほとんど何でもうまくいきます。医師、弁護士、建築家、バス釣り愛好家、人はさまざまな分野に特化していますよね?あなたのアドバイスの対価として報酬を得られるよう、十分なお金が回るような何かがあればよいのです。中には、人生における何らかの問題、あるいは転機に特化しているアドバイザーもいます。例えば、新婚夫婦や離婚した人々などです。そうした転機には、人生とともにお金も動きます。

 

 

 

<テクノロジー>

 

 

シュトレール: あなたは、(アドバイザーの)業務を支援するテクノロジーついて話されていました。今日、アドバイザーの業務においてテクノロジーはどのような役割を果たすべきだと思いますか?

 

 

キッチェス: ソフトウェアが台頭し、定着(アダプション)段階にあるのは明らかです。各顧客や口座レベルでポートフォリオモデルを管理するソフトウェア、一つの世帯、会社レベルでアドバイザーの実務を集約するソフトウェアがますます一般的になっています。これには、さまざまな形態のセパレート・マネージド・アカウント(SMA)、ユニファイド・マネジド・アカウント(UMA)、モデルポートフォリオを提供するマーケットプレイス、リバランスのためのソフトウェアなどが含まれます。これらはそれぞれ使い方や用語が微妙に異なりますが、その機能はすべて同じ目的を達成するものです。

 

 

テクノロジーがこの段階に達するまでは、プロの運用者が個々の顧客別に資産を運用することはできず、複数の顧客のお金をひとつのバケツに入れて運用するだけでした。これは本質的には投資信託が行っていたことであり、1920年代から2000年代(2000年から2009年)まで誰もが入手可能な唯一のモデルポートフォリオは投資信託だけでした。しかし、過去20年間で進化したテクノロジーによって、同じソフトウェアを使用して、顧客・世帯・アドバイザー・会社などのグループに分けて、複数のミューチュアルファンドを顧客ごと、口座ごとに個別のポートフォリオとして管理することが可能となりました。

 

 

最終的にこのテクノロジーが、以前は存在しなかった道を開き、それなしでは実現できなかった個別化されたサービスを可能にしたのです。

 

 

シュトレール: テクノロジーの話を続けましょう。人工知能(AI)についてはどうお考えですか?それはファイナンシャル・アドバイス事業にどのような影響を与えるでしょうか?

 

 

キッチェス: 基本的に、私はアドバイザー向けのあらゆるテクノロジーと、それが生産性を高め、アドバイザーの業務を再構築する方法に大きな期待を持っています。とは言っても、AIには非常に懐疑的です。これはコンピュータに対して懐疑的な態度をとるのと同じようなものなので、おそらく厳しすぎる評価だと思います。私たちは誰もが人生経験を経て物事に対する視点を身につけます。広義で見たAIへの私の懐疑心は、テックブームの時期に働き始めたことや、今に至るまで多くの短命な技術革新のサイクルを見てきた経験から来ています。

 

 

(ここでキッチェス氏は、自身のキャリアの開始時期がドットコムバブルと重なったことを詳しく説明してくれました。株式市場は、ドットコムバブル崩壊後の安値から、高値を更新するまでに13年かかりました。彼は、現在のAIを巡る熱狂が、当時の陶酔と似ていると示唆しました。)

 

 

私が強調したいのは、私たちは頻繁に「新しいテクノロジー」の効用を過大評価してしまうということです。時間が経つにつれて、この傾向は薄れ、これらのテクノロジーは実際に何ができるのかという、実用的な使い道に焦点を当てるようになります。たとえば、会議の議事録や会議後の報告書などを作成する機能など、AIが有効であると明らかに示すクールな機能が今後もいくつか生まれると思います。AIは会議の議事録を瞬時に生成し、その後、(ほんの一例として)「Roth IRA(ロス型個人退職勘定)」(※退職後資金積立のための税制優遇口座のひとつ)の開設など、CRM(顧客管理システム)内でフォローアップ計画を作成し、それを適切な担当者に割り当てることができます。

 

 

これは大層優れたAIの活用事例であり、アドバイザーの業務効率化に非常に重要な影響を与えます。我々のデータによると、平均的なアドバイザーは顧客との面談1時間につきさらに1時間を準備とフォローアップに費やしています。この時間を削減することは、生産性を大幅に向上させることになります。

 

 

 

<求められる柔軟性>

 

 

シュトレール: テクノロジーから話題を移します。あなたは、ファイナンシャル・プランニングのプロセスに柔軟性を取り入れるという研究で大きな進展があったと話されていました。このアイデアについて少し説明していただけますか?柔軟性を導入することが、アドバイザーにどのように役立つのでしょうか?

 

 

キッチェス: これには依然として課題があります。複数のツールの開発を始めていますが、まだ完全とは言えません。いくつかの段階があり、まず一つ目は、ファイナンシャル・プランニングが「あなたが立てた目標を達成するための最も効率的な方法を見つけます」という考え方に基づいていることです。良いアドバイザーであれば、答えを導き出すことができます。

 

 

しかし、問題は、多くの人は、自分の目標となるファイナンシャル・ゴールが何であるかすら分からないことです。彼らはそれについて時間をかけて考えたことがなく、言葉できちんと表現することもできません。そこで、しばしば「65歳で100万ドル」など、メディアや、自分の周りで見聞きしたことのある目標を根拠もなく適当に掲げてみせます。この目標は通常、65歳がメディケア(※高齢者・特定障害者等のための米公的医療保険制度)適用年齢であることや、100万㌦がキリの良い数字だと感じるためです。

 

 

柔軟性に関する2つ目の課題は、現在使用できるツールには大きな欠落(隙間)が存在することです。この問題の最たるものは退職する時に発生します。私たちは、資産が枯渇しないようにポートフォリオから資金を取り崩す最適な方法についての研究に莫大な時間を費やしていますが、実際には、これらの手法を研究結果通りに実践しているアドバイザーはほとんどいません。それでも奇跡的に99.9%のアドバイザーは、自身の顧客が資金の枯渇に直面したことがないのです。その理由は、人は物事がうまくいかなければ行動を変えるからです。基本的に、人間の行動がどのように変わるかをモデル化したツールはありません。

 

 

支出の変動について誰がどのような許容度を持っているのか、また、そのような人の退職後のポートフォリオをどうやって設計するのかは、アドバイス業界において大きな隙間が空いていますす。今のままでも壊滅的な失敗を経験している人は誰もいないようですので、ビジネスの現状が破綻しているわけではないでしょう。しかし、たしかに欠落があると思います。

 

 

私が懸念している根本的な問題は、現在アドバイザーが提供しているアドバイスによって、退職後の顧客が支出を抑制するように構造的に誘導してしまっていることです。正直なところ、これはアドバイザー業界としては実に自然なことです。顧客が資金を取り崩さずに保全すればするほど、(預かり資産額に対する料率でフィーをもらうなら)アドバイザーの報酬が増えるわけですから、顧客を支出抑制に誘導する方向に業界のバイアスがかかるのです。アドバイザーがより高い請求をするために、顧客が自分のお金で人生を楽しむのを意図的に阻んでいるということはないでしょうが、この問題の一因となる微妙なインセンティブは存在します。

 

 

 

<個別化の難しさ>

 

 

シュトレール: 話題を柔軟性からパーソナライズ(個別対応)に移しましょう。俯瞰的に見て、画一的なサービスに比べて個々人に対応するサービスにはどのような価値がありますか?もちろん、ファイナンシャル・プランはある程度は個別化されているものではありますが、いわゆるパーソナライズの価値をどうお考えですか?

 

 

キッチェス: このテーマにはいくつかの悩ましい面があります。最も基本的なレベルでは、すべてのアドバイザーは顧客と個人的な関係を持っています。つまり、すでに顧客別に対応しており、とっくに個別化しているのです。そのため、「テクノロジーを使えば、パーソナライズを効率的に拡大することが可能になる」という議論は、私には素人のたわごとに聞こえます。このビジネスはパーソナライズを前提として成り立っています。ファイナンシャル・アドバイザーとしてむしろ私がまず心がけていることは、標準化、体系化する方法を見つけることです。もしも、それぞれの顧客が持つ固有の嗜好、それぞれが置かれた状況、ファイナンシャル・プランなどに応じて個別に対応するという膨大なパーソナライズを実践したら、業務の負担に打ちのめされてしまうからです。

 

 

結局のところ、ポートフォリオを本当にパーソナライズしても、アドバイザーの業務は拡大せず、むしろ縮小してしまうことになります。顧客との対話も劣化します。たとえば私がひとつのモデルポートフォリオについて、今週11件の面談をする予定があるとします。この場合、同じポートフォリオについて11回、顧客と話をすることになります。このポートフォリオにおいて何がうまくいって、何がうまくいっていないのかを把握しているし、すでに精査し終わっているので、話すべきポイントも分かっています。しかし、個々の顧客に対して異なるポートフォリオが「パーソナライズ」されていると、こうした効率が失われてしまいます。

 

 

ですから、そこには大きな課題があると思います。克服不可能ではありませんが、皮肉なことにこうした顧客との対話を促進するためには、より多くのツールやテクノロジーが必要です。もし面談の準備に毎回30分も費やさなければならないとしたら、効率性に大きな影響を及ぼしますから。

 

 

 

<ダイレクトインデックス>

 

 

シュトレール: さて、ダイレクトインデックスは、ある意味でテクノロジーによって実現されるパーソナライズの手法です。それをテーマとする記事で、あなたはパーソナライズされたダイレクトインデックスについて解説されています。その観点でパーソナライズあるいはカスタマイズについてどのようにお考えですか?

 

キッチェス: 私はダイレクトインデックスの魅力に取りつかれていますが、多岐にわたるその活用事例にも注目しています。

 

 

簡単な活用事例から始めると、例えばtax-loss harvestingは主にダイレクトインデックス以外の保有資産によるキャピタルゲインと損益通算をすることを目的とするもので、含み損を抱えた銘柄を売却してキャピタルロスを確定し、損益通算後に節税分を再投資して指数をアウトパフォームすることを目指します。節税効果を享受することを目的としたダイレクトインデックスですが、投資効率の観点からも上手く機能します。

 

 

これを使えば過去に使用していたモデル、組入銘柄と投資比率、サービスをそのまま利用でき、投資ストーリーも変わりません。税制優遇制度について話すことができ、今までと違う投資法を語る必要もありません。私にとっては、とても明解なことに思えます。

 

 

さて、その対極にあるのが、各顧客固有の状況に応じたカスタマイズです。例えば、顧客がGoogleに勤務しており、大量のGoogle株を保有しているとします。アドバイザーはその顧客に、Google株を除外したS&P 500のポートフォリオを構築するかもしれません。場合によっては、Googleがテクノロジーセクターの代替投資先として十分な役割を持つため、セクター全体を除外することさえあるでしょう。

 

 

この投資理論は理にかなっていますが、ポートフォリオのインデックスに対する連動性が低くなることで、アドバイザーにとっては複雑になります。もしアドバイザーがこのようなカスタマイズをすべての顧客の働き先――Google、Facebook、Exxon、IBM――を考慮して行うならば、ポートフォリオがそれぞれ少しずつ異なるため、さらに複雑になり、面談のためにより長い準備時間が必要になります。

 

 

 

<顧客の価値観>

 

 

キッチェス: 私にとって次の段階は、私が「パーソナライズド・ポートフォリオ」と呼ぶもので、これは顧客の置かれた状況ではなく、顧客の嗜好に基づいて個別化するポートフォリオです。例えば、「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」や「価値観に基づく投資」といった領域です。顧客が銃やタバコ関連銘柄を嫌う場合、これらを除外したポートフォリオを希望することがあります。また、自身のお金が特定の目標の達成に貢献しているのを見たいと考え、より多くの資金をその目的のために配分したいと考えている顧客もいるかもしれません。これは、アドバイザーからすると、あまり好ましくない両刃の剣となります。ポートフォリオのリターンと、嗜好を具現化したいという顧客の期待の両方に応える必要があるからです。

 

 

一方では、このアプローチによって効率は大幅に下がります。なぜなら、すべての顧客が独自の嗜好に基づいて異なるポートフォリオを持つことになるからです。人は、驚くほど個性的で多様であるため、同じ嗜好を持つ顧客は2人といません。

 

 

とはいえもう一方では、このアプローチを深く突き詰め、特化しているアドバイザーもいるようです。彼らはこれを自身の得意分野とし、その領域にいる顧客全員に体系的で一貫性のあるサービスを提供しています。彼らは「私たちは、投資家自らが重視する理念や価値観が直接反映されたポートフォリオへの投資を通じて、成功した退職後の生活を築くことができるよう支援します」と言うかもしれません。

 

 

 

<特別なことではなくても>

 

 

シュトレール: あなたは基調講演で、「ビルド・ア・ベア・ワークショップ」(※オリジナルのぬいぐるみが作れる店舗を展開する米小売企業)のような実地参加型の顧客エンゲージメント・モデルを例に挙げて、有意義な体験を創造することの重要性を強調されました。ダイレクトインデックスも同様に、投資家と彼らのポートフォリオのつながりをより強くできるとお考えですか?

 

 

キッチェス: 今後しっかり見極める必要があるでしょう、楽観的ではありません。そこには何かがあるかもしれません。ただ、最初から自分が信じていないものを購入する投資家は多くないと思います。

 

 

シュトレール: 最後に、体験を通じてより大きな親近感を生み出す源とはどのようなものか、教えてください?

 

 

キッチェス: 顧客が得る体験がどのようなものかを考えると、それはお金そのものに関することではありません。顧客体験はお金とは自分にとって何なのか、その意味を知ることにあります。例を挙げて説明しましょう。

 

 

アドバイザーが苦労する一つの領域は、ファイナンシャル・プランニングの最初のステップです。分析のために顧客のすべての財務データを集めて、それをソフトウェアに入力するわけですが、たくさんの見込み顧客がここで躓きます。多くの人が自身の資産を整理できていないため、アドバイザーが渡すデータシートの項目をすべて記入して埋めることができないのです。必要なデータが不足しているのでそれを求めると、顧客は気を悪くし、データを受け取れないまま関係が壊れ、顧客が去ってしまうことがよくあります。

 

 

さて、顧客体験という観点からこれを考えると、まず、新しい顧客と初めて座って話をするところを想像してください。あなたは言います、「私たちのファイナンシャル・プランニングの過程には、あなたの財務状況を完全に把握し、あなたの目標達成を支援することが含まれています」。多くの顧客に会って分かったことは、そもそも自分のお金が全部でどれくらいあり、それがどこにあるのか分かっていないということです。これは少し情けないことですが、多くの人の現実です。

 

 

例えば、長い間ほったらかしにしていた古い401(k)プラン、子供の頃からある古い銀行口座、あるいは、引っ越す前に子供が生まれた州で開設した教育資金のための税制優遇制度による529プランなどが考えられます。おそらく、重要な書類が入った封筒の詰まった箱が家のどこかにあり、誰も気が付かないままになっているのではないでしょうか。

 

 

私たちが顧客のために行うことの一つは、こうしたものの整理を手伝うことです。次の面談の進め方はこうです:どこにあるにせよその箱を探し当てて持参していただきます。一緒にひとつずつ確認しましょう。将来、あなたを煩わせることがないよう、どの書類を保管し、どれを捨てるべきかをお伝えします。そして今後も整理された状態が保てるように、ラベルで色分けされた簡単なファイルフォルダーによる整理法を紹介します。これは単純で効果的で、あなたもきっと気に入るはずです。1、2時間かかるかもしれませんが、これまで経験したことがないほど「お金に関して整理整頓ができた」と感じてお帰りになることができます。

 

 

私にとって、これが顧客体験を創造するということを意味します。何か特別な手の込んだものではありませんが、非常に大きな効果があります。

 

 

シュトレール: 示唆に富んだ素晴らしい対談でした。貴重な洞察を時間を割いてお話いただき、どうもありがとうございました!

 

 

キッチェス: どういたしまして。皆さんが考えるきっかけになれば幸いです。

 

 

 

※ 本稿はモーニングスターによる2024年7月23日のコラムをモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。日本語と英語原文に違いがある場合は、英語が優先されます。原文は以下からご参照ください。
Michael Kitces: 5 Trends Financial Advisors Should Know  
 
※ 著者であるダニエル・ヌーナンは、この記事で言及されている証券を一切保有していません。モーニングスターの編集ポリシーについてはこちらをご覧ください。
 
 
 
(免責事項:この記録は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスではありません。掲載された意見は、収録日現在のものです。このような意見は変更される可能性があります。ゲストの見解・意見は、必ずしもモーニングスターおよびその関連会社の見解・意見ではありません。すべての投資には、元本割れの可能性を含む投資リスクが伴います。個人は、投資決定を下す前に、自分の財政状態、投資目的、およびリスクプロファイルを参照して、投資が自分に適しているかどうかを真剣に検討する必要があります。)