<Morningstar The Long View インタビュー (後編)>
あなたは吝嗇家(りんしょくか)? それとも浪費家?
お金への姿勢の違いでカップルが不和にならないための知恵
ゲスト: スコット・リック氏 ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネス 准教授
聴き手:
クリスティン・べンツ Morningstar パーソナル・ファイナンス/リタイアメント・プランニング・ディレクター
エイミー・アーノット Morningstar ポートフォリオ・ストラテジスト
前回に続きゲストはスコット・リック氏です。スコットさんは、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスでマーケティングの准教授を務めています。新著に『Tightwads and Spendthrifts: Navigating the Money Mindefield in Real Relationships』(St Martinsプレス)があります。2007年にカーネギー・メロン大学で行動意思決定研究の博士号を取得し、その後ウォートン大学でポスドク研究員として2年間を過ごしました。彼の研究は、消費者の金融意思決定の感情的な原因と結果を理解することに焦点を当てており、特に吝嗇家と浪費家の行動に関心があります。 ※スコット氏の新著について質問をしています。吝嗇と浪費などお金対する性格や姿勢に焦点を当てた画期的な研究に基づき、実際の生活や人間関係を改善するための様々な提案がされています。
※ 本稿はMorningstarによるスコット・リック氏へのインタビュー「The Long View」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。インタビューのヴィデオ(英語)はこちら(https://www.morningstar.com/personal-finance/scott-rick-are-you-tightwad-or-spendthrift )からご覧いただけます。
※ 本稿は情報提供のみを目的としており、特定の投資対象・投資資産などを推奨するものではありません。投資は個人の責任において行ってください。
アーノット: あなたは著書で、カップルについて人間関係やお金の問題に関してお互いがどのように関係しているのか、いないのかについても多くの紙幅を割いています。ところで、お金に対する人の性格について掘り下げる前に、共同生活の成功や失敗に経済的な問題がどれほど大きな役割を果たすかについてお話しいただけますか?
リック: 多くの研究によると、お金は重要項目として最上位近くにあり、お金についての諍いは義理の親戚に関する揉めごとと並んでいます。この2つは、結婚生活の破綻につながる大きな要因です。そして問題は、これらに関わる不和が生じる機会が非常に多いことです。同等の収入を得ていないカップルもいますし、経済的な選択はどれもハッキリと決断しなければなりません。そして、人生をどう生きるかという決定は、子供に何を習わせるか、どんな休暇を過ごしたいか、どんな隣人のいる場所に住むべきかといった、経済的な判断でもあり、避け難い決断です。関係が拗れるきっかけはあまりにも多いと言えます。
ベンツ: では富はどうでしょう? 金融資産が多い夫婦は金銭的な争いが少なく、金融資産が少ない夫婦はお金についてより摩擦が多いのは理に適っていますが、データはそれを裏付けているのでしょうか?
リック: 2つの問題があります。お金が足りないというのは大問題です。また、お金の使い方について考えが違うということもあります。この2つが苦痛につながる大きな要因です。たとえ書面上の財政状況が良くて豊かな生活を送っているように見えるカップルでも、お金の使い方についての考え方が違う場合――彼らは、辛うじてやりくりしているカップルと同様に、お金のことでしょっちゅう喧嘩をしている可能性があります。
アーノット: それと関連して、お金は正反対の人どうしが惹かれる要素の一つであり、夫婦の一方が浪費家で、もう一方が吝嗇家であることは必ずしも珍しいことではないとおっしゃっていますね。そんな場合、何が起こっているのでしょうか?
リック: あなたが吝嗇家または浪費家であるとして、自分自身のそのような側面を好きだとは限りません。私たちの調査でも当事者がそのように言っています。だからこそ私たちは研究において両極端の特性を持つ人々を「葛藤あり」、その中間にいる人々を「葛藤なし」と呼ぶのです。さて、もしあなたが自分について嫌っている、あるいは良くないと自覚している問題を抱えていて、他の人が同じことをやらかしているのを見ることで自分の問題を見せつけられたなら、実に不快な形であなたが心の奥に隠しておきたかった事実に光が当たることになります。その場合、相手は嫌な自分を映す鏡となるのです。
吝嗇家であれ浪費家であれ、同じ性格の2人が相対すると、互いの行いを目にして嫌な気持ちになるのはありがちなことです。ですから、自分とはまったく違うお金へのアプローチをする人が傍にいるのは、楽しく、エキサイティングで面白く、新鮮なことだと初めのうちは感じます。特に、浪費家がお金を使う姿を見て、吝嗇家が非常に面白く感じる状況は想像に難くないでしょう。たいそう魅力的ですから、最初は楽しいと思います。
厄介なのは、長期的な関係や結婚においては、決断を下すことがより重要になることです。世の中には、最初は魅力を感じたものが、最後にはあなたを苛立たせるものになってしまうという、あらゆる種類の致命的な魅力があります。ですから、お金へのアプローチがパートナーと違うというだけで、運命の相手と出会ったというわけではありません。ひたすら気を付けながら、互いに努力を重ねなければなりません。
ベンツ: つまり、浪費家が吝嗇家から健全な金銭習慣を身につけることが良い関係を築く鍵であり、その逆もまた然りということですね。それは、正反対の気質のカップルが調和を見出すのに良い方法だと思います。お金に対する考え方についてカップルが互いに最善を尽くすにはどうすれば良いか、あなた自身の経験から具体的なアイディアはありますか?
リック: 会話を重ね、できるかぎり認識を共有することは良いことだと思います。時には外部のサービスを利用するのもいいでしょう。先ほど挙げた例のように、私が浪費し過ぎないと信頼して妻が私に休暇旅行を予約させれば、妻は旅行の価格を正確に知ることなく休暇を楽しむことができるというわけです。確かに、長続きする良いカップルはお互いに何らかの譲歩をし合い、極端さが緩和されていきます。彼らは中央に向かって少しだけ歩み寄ります。完全に宗旨替えをするのは困難です。ゆるやかな変化ですが、それが上手くいけば、たいてい時間の経過とともにパートナー同士はより似てくるものです。
アーノット: あなたはまた、とても興味深い指摘をしていらっしゃいます。カップルが何かにお金を使うかどうかを話し合っている場合、体験消費(コト消費)なら浪費家が、商品消費(モノ消費)なら吝嗇家が、支出の主導権を握るべきだとおっしゃる。もう少し詳しく教えていただけますか?
リック: これは、妥協点を見つける方法です。多くの調査や実験から、いくら物を沢山買っても、人はそれほど長く幸福感を保つことはありません。買った直後はたいてい高揚しますが、大体それはすぐに萎んでしまいます。ですから、もし新しい屋外スピーカーシステムを手に入れるべきか議論しているなら、それについては吝嗇家と買いに行くといいでしょう。一方、経験、特にカップルや家族全員で共有する経験には、多くの利点があります。それは経験そのものだけでなく、期待・記憶・物語などをもたらし、お互いについて理解を深めるからです。誰かと一緒に旅行すると、多くのことを学ぶことができます。日常の会話では事務的なこと――誰が配管工に対応し、誰が子供たちを稽古事に連れて行くのかなど――に忙殺されています。ですから、経験のための支出であれば失敗を恐れず、より浪費家側に任せるべき理由は、たくさんあると思います。
ベンツ: パートナーが互いに影響し合う機会についてお話しいただきました。カップルとして問題に向き会うことに年齢は関係があるでしょうか。若いほど順応性が高く、他者からポジティブな、またはネガティブな特性を獲得しやすいのでしょうか? 年齢は、カップルが互いの違いを乗り越える能力を決める要因となり得ますか?
リック: はい、可能性は高いと思います。現在、人々は以前よりも晩婚化していることは明らかです。
それぞれの人が使い慣れた自分の銀行口座を、カップルになる以前から持っているのは、実に興味深いことです。彼らは共同口座を開設することにやや消極的ですが、それはあまりにも強く今までのやり方にこだわっているからです。良い面も悪い面もありますが、そうですね、結婚が遅くなるほど、自分流のやり方が少し強くなるでしょう。
アーノット: 著書では、カップルの関係を難しくする要因として、収入水準の違いも指摘されています。特に伝統的な男女のカップルでは、女性が大黒柱である場合、難しくなりがちだとのことです。この問題に上手く対処するための提案はありますか?
リック: もし信頼関係がちゃんとあって、全体的に上手くいっているカップルであれば、私はカップルの収入すべてを共同の口座に入れることをお勧めします。お金が家に入ってきたとたん、「私たちのお金」になる仕組みです。「私の給与なのだから、共有口座にそのうちのいくらかを入金する」とか、「あなたの方が収入が少ないのだから、給料の一部を差し上げる」というのは、いや、それはやめておいた方がいいでしょう。このような記録管理や、誰が何に貢献しているかを正確に追跡することは、多くの不幸の元凶にすぎません。したがって、収入の差を曖昧にし、できるだけ気にしないようにするために、共同口座が良いと思います。一方が働いていて、もう一方が家で幼い子供の世話をしている場合、収入の差があることは厳然たる事実です。しかし、それを背景として追いやり、「私たちのお金」として扱い、お金が家に入ったら常に「私たちのお金」だと考えればよいのです。これは、心理的なマネーロンダリングのようなものです。これらの異なる収入のラベルを取り除けば、お金は常に「私たちのもの」になります。
ベンツ: あなたは実際に、夫婦が家計を共同で管理すべきか、別々にすべきかという問題を研究しました。そこで得た知見についてお話しいただけますか?
リック: 私たちは、別々のアカウントを持っている婚約中のカップルと新婚カップルを対象に実験を行いました。彼らは長期的にどうしたいのか、まだ決まっていないような状態でした。そこで彼らに報酬を払って、二人のお金を統合して共同口座を採用するか、別々の口座を持ち続けるか、あるいは何にせよやりたいことを何でもするように言って、調査を行い、2年間追跡しました。私たちは彼らの関係を確認しました――「まだ会話がありますか?」「今もなお、お互いを好きですか?」「喧嘩していますか?」といった質問です。すると、私たちが共同口座を開設するように促したカップルは、新婚時代と同様の夫婦の満足度を維持していることがわかりました。そうしなかったカップルは、結婚式の日が幸せの頂点で、現実の生活に踏み込むと幸福が減衰していくという、ありがちな経験をしました。
ですから、共同口座にはいくつかの効果があると思います。一つは、所得格差を曖昧にします。もう一つは、いわゆる共同体的なものを維持するのに役立つということです。人間関係はしばしば共同体から始まり、それは見返りを期待して援助するのではなく、助けを必要とする相手に手を差し伸べるものです。いわゆる互恵関係――たとえば職場で同僚と仕事をしていて、お互いに何を提供したか欠かさずに記録していて、同僚があなたを社内の賞に推薦してくれたとすると、あなたはお返しに来年その同僚を推薦しなくてはならない、そういう相互作用が働く、スコアボードにすべてが記録される関係――に堕ちたくはありません。そうした採点記録を避けるのに、あなたのお金と私のお金を「私たちのお金」に変えることが役立つのです。また、会話を促し、より多くを語り合い、共通の意識を持てるようになりましたが、これは倹約、倹約、また倹約という意味ではありません。それは、時々思い立って週末に外出する余裕があるかもしれない、という程度のことでしょう。それでも、共同口座はこれらのカップルにとって多くのメリットがあったと思います。
アーノット: ほとんどのカップルにとって、共同口座を持つことはおそらく良い考えのように思えますが、あなたはまた、各パートナーが各自の支出管理をする裁量権を持つことがいかに有益であるかについても書かれています。それを効果的に行うための最良の方法は何ですか?
リック: はい、その通りです。私が先ほど言ったことを考えると、全くもって正反対に思われるかもしれませんね。私は共同口座が好きです。ただ、共同口座だけを持つべきだと言っているわけではありません。共同口座は、収入を集中管理することで精神的なマネーロンダリングを行う仕組みです。ただし、その共同口座の影には、お金の一部をそれぞれが使用できるように引き出すための個人の口座が存在する余地があります。そうすれば、いちいち相手に肩越しに覗かれることなく、それぞれが二人のお金の一部を気兼ねなく使えます。共同口座は世帯の支出を管理することが目的のもので、たとえば住宅ローン、家賃、光熱水道費、教育費など子供の費用などをまかなうものです。
個人口座を持てば、私は個人的な日々の買い物、たとえば職場でラテを買いたいとか、私の趣味のために何かを買いたいと思った時に、自分のアカウントからお金を使うことができます。パートナーがすべての支出について、いちいち把握する必要はありません。お互いの肩越しに見張り合えば、そのお金の使い道について意見が分かれるようになるからです。それぞれに異なった趣味を持っており、その趣味にいくら注ぎこむかは互いの理解を超えた話ですから、もし知ってしまったら「本当にそんなにお金をつぎ込む要があるのか?」と言いたくなるでしょう。そして不要な口論が始まれば、良いことよりも辛いことが多くなるだけです。
ベンツ: もう1つ、カップルとお金について線引きをする上で時々聞かれる知恵は、しきい値X、たとえば100ドルなどを超えた支出をする場合はパートナーに伝える必要があるといったことです。こうしたルールについてどう思いますか? それらは機能するのでしょうか?
リック: 有効でしょう。それは確かに私がここで提案していることの範疇にあると思います。私たちは、毎週または毎月、共同口座からそれぞれXドルを各自の口座に振り込むことに同意できるでしょう。それは、ある程度以上の費用については話し合うべきだという精神に合致します。ただし、私は厳格なルールを好まないので、ある程度の余裕と信頼、そして思慮分別と直感を働かせるべきだと思います。でも、私の提案は確かに同じ土俵にあるし、そのアプローチに異議を唱えるつもりはありません。
アーノット: また、「金銭的不貞(financial infidelity)」行為に関する記事や見出しもたくさん見てきましたが、支出に関して非常に深刻な信頼関係の侵害があります。それは重要な問題ですか?
リック: ええ時々、さまざまな依存症や薬物、ギャンブルなどのせいで人々が密かに多額の借金を抱えてしまうという話があります。起こり得ることですが、その影響については非常に大げさに、あまりにも大げさに伝えられていると思います。なぜなら、そうした話題は多くのページビューを集め、注目され、道徳的なパニックによる炎上などを引き寄せるからです。私が目にするものの多くは、「金銭的不貞」と表現されていますが、まるで不倫でもしたかのように俗っぽい非難です。秘密とかプライバシーとか、そういう呼び方でもいいでしょうに。人々はこのフレーズを使って、あなたが購入しているものを100%積極的に開示していないと言うのです。たとえば私が母にプレゼントを買って、それを妻に報告しなかったとしましょう。それは「金銭的不貞行為」ですが、妻は気にしませんし、知りたくもないでしょう。母がつらい思をしたり、愚痴をこぼしたりしないように、私が何かすればいいと思っているかもしれませんが、詳細は必要ないのです。こうしたことはあまりにも多くの心配の種になるので、ある程度の裁量とプライバシーを持つのはとても良いことだと思います。どんなに親密な関係であっても、ある程度互いを尊重することが必要です。
ベンツ: この本の中で、パートナーにプレゼントを贈ることに関する非常に興味深い記載がありました。あなたはそれについていくつかの考えをお持ちですね。それらについて話し合うことができますか?
リック: はい。世の中には、良い意味での、しかし見当違いの贈り物のアドバイスがたくさんあると思います、例えば、パートナーに良い贈り物をしたいのなら、相手に何が欲しいかと聞いて、それを贈ればいいのです。これは、破滅を避ける方法です。私の妻の家族の話ですが、ロマンチックな休日に奥さんにアイロンを贈り、それを投げつけられたというつわものが居るそうです。アイロンが家にあるのはいいことですが、贈り物にはなりません。相手に聞くことは災厄を避ける方法となる、というのは分かります。しかし、2つの理由から、良いことだとは思いません。第一に、聞き出すこと自体が簡単ではありません。相手の気持ちを傷つけずに聞き出すには、かなり洗練された話法が必要です。相手の負担にならないように。こんな訊き方はダメですよね、例えば、「何が欲しいの?」「今年はバレンタインをやるの?」あるいは「あのさぁ、今コンビニにいるんだけど、何か欲しい?」。ありがちなことです。
第二に、パートナーに対して思いを十分に表現しきれないという現実もあります。物事がうまくいっている時でも、パートナーに対してポジティブな感情を抱いていても、よい機会がないために思いを共有できないことがあります。私たちは日々の家計の運営について事務的な話し合いはしても、相手に「あなたを愛している……自分とは違うこんなことをするから」と伝える自然なタイミングは滅多にありません。それを表す適当な言葉も知りません。気まずい思いをして、自分の中に閉じ込めて、疲れてしまったり、相手がうんざりしているのではないかなどと心配になったりします。
ですから、贈り物を贈る機会は、相手が気にかけられていること、理解されていること、そしてそれは互いが望んでいることであることをパートナーに示すための非常に重要な瞬間です。私たちはパートナーに知ってほしいと思っています。ですから、良い贈り物をするためには、パートナーの心の内側の世界を探求する必要があります。彼らの興味や好奇心、希望や懸念は何か、心の中に入り込んで、何が起こっているのかを理解する必要があります。クリスマスイブだからとかコンビニの店内にいるからといって、できるわけではありません。本当に必要なのは、デートの夜にお互いに質問をし合って、それから互いの心の内で何が起こっているのかをそれぞれが深く考えるような、内面の探索です。
アーノット: また、本の付録には、デート中またはすでに確立された関係になったカップルがお互いをより深く知るための、またさまざまなトピックを探求するための、お互いに尋ねることができる質問のリストがありますね。
リック: はい、一緒に暮らして10年、20年も経っているのに、相手について他に何を知る必要があるのかと思うかもしれません。しかしこれらの質問を見ればお分かりの通り、質問は見知らぬ人と時間をかけずに親しくなるために開発されたものです。結婚してしばらく経っている人にも良い復習になると思います。これらの質問はすべて――また出てきましたが――あなたのパートナーの興味や好奇心、空想や欲望に関するものです。それは誰にとっても役に立つおさらいになると、保証します。
アーノット: また、この本には、子育てや子どもに関わるお金の問題についての章もあります。子供という要素が加わると、子供にどれだけの費用をかけるかについて争いが起きる可能性が高まるように思えます。カップルがそれを乗り切るための良い方法について考えをお聞かせください。
リック: そうですね、子供たちがどんなことに気が付いているかに注意を払う必要があります。子供たちは多くの雑多なメッセージを受け取ります。たとえば、子供たちに「OK、そろそろ画面から離れなさい」と、ツイッターをスクロールしながら言う親は私だけではないでしょう。矛盾した情報です。しかし、そうですね、彼らはたくさんの複雑なメッセージを受け取ります。
私の両親は、「私の真似をするのではなく、私が言うとおりにしなさい」と言い、上手く行くようにおまじないでもして、その通りになることを願うでしょう。しかし、世の中にあるその手の研究を鑑みると、子供というものは親が口にするどんな教えよりも、親の行動を見て理解するする可能性の方がはるかに高いようです。あなたは、自分の子供を吝嗇家や浪費家に仕立て上げていることに、すぐには気がつかないかもしれません。私の子供たちはまだ小さいので、私が自宅の改造についていい加減に決めたあれこれを真似できませんが、いつか彼らが家を改造する番が来たら同じことをやらかすかもしれません。このように、親の与えた影響が表面化するまでには、時間がかかるかもしれません。
ですから、目にする行動から彼らが学んでいるのだと強く意識してください。彼らはまた沢山の疑問を抱きます。「どうやってそれを手に入れたの?」「買ったのかな?」「おじいちゃんにもらったのかな?」「もしかして誰かから巻き上げた?」など、もやもやしています。ですから、物事を話し合いましょう。私は子供の前だからといって完全に責任ある浪費家に変身することはできません。でも、「まぁ、たまには贅沢をしてもいいよ。だけど、そうするとその後何か君たちの好きなものを諦めることになる。それでもこのまま前へ進むかい?」と彼らに確認することはできます。少なくとも、何も考えずにごく気軽にクレジットカードをカウンターにぴしゃりと置いて、これについてまったく気にかけていないと子供が思わないようにしましょう。彼らの目には見えない心の動きを、明確に表現するのです。まぁ、パートナーと2人きりのときは何も言わずに我慢することもあるかもしれませんが。ただし一方が「ああ、今は子供の人格形成期で、これは有害なことかもしれない」と意識しだすと、こういうことが本当に厄介な問題になってしまいます。
ベンツ: さて、著書の内容から一歩離れてうかがいます。エイミーと私は投資に焦点を当てた世界の住人ですが、投資に関する心理学では執拗な議論が行われており、それは確かに私たちの仕事において、特に人の行動を理解する上で重要な脈絡があると思います。ところが、私見ですが、この本で取り上げていらっしゃる家計レベルでの経済的意思決定の心理学に関する議論は、はるかに少ないように見受けられます。それはなぜだと思いますか?
リック: 私も確かにそれに気づいています。TikTokでパーソナル・ファイナンス関連の動画を漁ったことがある人なら誰でも、行動経済学についての何かしらを見たことがあるでしょう。しかし、家計レベルのものはとても分かりにくいのだと思います。難しいのです。もちろん、個人の投資判断の心理を理解することも同様に難しいでしょう。しかし、パートナー間でおこる諸々の議論や認識、それらに関する考察を考慮に入れると、研究は非常に困難です。我々の調査では、これらのカップルを追跡するのに2年を費やしたと言いました。しかもそれ以前に5年、カップルを募集し、実験の事前登録を行うためにかかりましたが、非常に複雑な努力を要する作業だったため、その間に脱落するカップルがいたほどです。彼らに対して何ができるのか? 調査半ばで離婚や破局を迎える人もいます。ですから実験から確かな結論を得るのは、とても困難です。私がこの本を書いたのは、夫婦の経済的な選択についてすべての答えを得たからではありません。でも、「よし、私たちの知見を伝えることで、皆が考えを深める手助けができるはずだ」と考えられる程度には十分答えたと思います。おっしゃる通り、やるべきことはまだまだあります。そして、この分野に飛び込む勇気のある研究者やアドバイザーが必要です。さあ、一緒に冒険をしませんか、私はあなたを待っています。
ベンツ: スコットさん、どうもありがとう。エイミーと私はこの本がとても気に入りました。私たちはお話をうかがえてとても嬉しかったです。本日はお忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます。
リック: 私もとても楽しかった、どうもありがとうございました。
アーノット:スコットさん、ありがとうございました。