今さら聞けない、インフレ話に出てくる「CPI」とは?米FRBは「CPIよりPCE」を好むワケ

インフレを語るときに必ずと言って良いほど登場するキーワードが、消費者物価指数(CPI)だ。だが、米連邦準備制度理事会(FRB)の金利決定には、もう1つの政府報告書である個人消費支出価格指数(PCE)の影響のほうが大きい。そもそもCPI、PCEとは何を意味し、それぞれの指標をどう読み取れば良いのだろうか。

 

サラ・ハンセン モーニングスター エディトリアル マーケッツ・リポーター  

翻訳校正:FinTech Journal編集部

 

 

ニュースでよく見かける「CPI」「PCE」とは何か?

 

 

 CPIは通常、一面を飾るニュースに用いられる。米国におけるCPI(Consumer Price Index:消費者物価指数)とは、米労働省労働統計局が集計する、消費者物価の変動を示す最も主要な指標である(注1)。CPIの年間インフレ率は、2024年7月が2.9%、8月が2.6%だった。

 

注1:日本におけるCPIは、総務省が毎月作成している。日本のCPIと米国のCPIは、公表時期や調査対象品目数のほか、「コア指数」の定義などが異なる。

 

 

 一方、PCE(Personal Consumption Expenditures Price Index:個人消費支出価格指数)とは、米商務省経済分析局が毎月発表する個人所得および支出報告書の一部であり、通常はCPI報告書の約2週間後に発表される。7月のPCEインフレ率は年率2.5%で、FRBの2.0%目標を上回ったがCPIの値を下回った。エコノミストは8月のPCEインフレ率が2.7%になると予想している。

 

 2つの指数の差をもたらしているのは何だろう? 投資家が知っておくべきことを見ていこう。

 

 

 

米国のPCEインフレ率とCPIインフレ率の1年前からの変化率。凡例は上から、CPIインフレ率(赤)、PCEインフレ率(青)

(出典:連邦準備制度経済データ、セントルイス連邦準備銀行、2024年9月26日時点のデータ、米モーニングスター作成)

 

CPIとPCEの相関関係

 

 

 CPIとPCEのインフレ計算の構成要素はほぼ同じである。どちらの指数も、特定の財およびサービスの集合の価格変動を毎月追跡することで、消費者物価の変動の定量化を図るものだ。その集合全体の価格が一定期間により急速に上昇すると、インフレ率も上昇する。

 

 米モーニングスターのチーフエコノミストであるプレストン・コールドウェル氏は、「長期的に見れば、(CPIとPCEは)ほぼ同じソースデータを使っているため、自然に連動する傾向にあるが、時には大きな乖離が生じることもある」と言う。計算式、構成要素、ウエイトが異なるため、それぞれの指数が描き出す経済における物価上昇圧力の様相は微妙に異なる。

 

 CPIインフレ率は、おおむねPCEインフレ率より約0.4パーセントポイント高い。しかし、2022年夏のピーク時はCPIインフレ率(9.0%)がPCEインフレ率(7.1%)を2パーセントポイント上回った。

 

2023年下半期はインフレ率が大幅に低下したため両指数の間の「くさび」は縮小したが、12月、1月、2月には平均0.7パーセントポイントまで再び拡大した。今夏はインフレ圧力が和らぎ、差は再び縮小した。

 

 

なぜ数字のズレが生まれるのか?

 

 

 CPIインフレ率とPCEインフレ率の差異は、2つの指数における構成要素のウエイトの違いに起因することが多い。特にここ数カ月はその傾向が強い。最も適切な例が住居価格で、CPI指数ではPCE指数に比べて約2倍のウエイトがある。

 

 コールドウェル氏は、「今、乖離をもたらしている最大の要因は住宅だ」と言う。

 

 「2月のPCEとCPIの年間値の差である100ベーシスポイントのうち、90ポイントはCPIに占める住宅のウエイトが高いことによる」と同氏は推定している。一方、PCEデータでは医療費のウエイトがかなり高くなっている。

 

 

 

インフレ指数のウエイト。CPIのウエイト(左)とPCEのウエイト(右)。

カテゴリの凡例は上から、食品(紫)、住宅(黄)、医療(赤)、金融(濃青)、非営利(薄青)、娯楽(橙)、交通(薄緑)、エネルギー(濃緑)、その他(グレー)

(出典:米モーニングスター作成)

 

 

CPIとPCEの差異をもたらすその他の要因>

 

 

 アナリストらは、2つの指数の差異をもたらす他の要素を指摘している。

 

 両指数は異なる数学的プロセスで計算される。たとえば、PCEの計算式ではウエイトを「月次」で調整するが、CPIの調整は「年次」である。牛肉の価格が上がったため食料品店の客が鶏肉に切り替えた場合、その変化はまずPCE指数に現れる。

 

 指数の対象範囲にも違いがある。PCE報告書の対象が「都市部と農村部」の消費者による購入であるのに対し、CPI報告書は「都市部」の支出のみを追跡している。CPIは消費者が直接支出した自己負担分のみを対象としているが、PCEは消費者に代わって支出された分も算入する。

 

 そのため、PCEの集合には雇用主やメディケア(高齢者向け公的医療保険)、メディケイド(低所得者向け公的医療保険)などの公的医療保険制度が従業員の代わりに支出した医療保険料が含まれるが、CPIには含まれない。PCEのデータには家計に代わる非営利団体の支出も含まれる。

 

 その他の要因としては、季節要因の調整方法の違いや、類似カテゴリの支出計算に使用される価格データがある。CPI指数での保険価格の計算はPCE指数よりも価格変動が大きくなる傾向があるのが、その一例だ。

 

「医療保険は2023年CPIの大きなマイナス要因だったが、2024年はかなりのプラス要因となっている。PCEよりも変動がかなり大きい」(コールドウェル氏)

 

 

 

PCEインフレ率とCPIインフレ率の差異の要因。縦軸はパーセントポイント。凡例は上から、計算式(青)、ウエイト(赤)、範囲(黄)、その他(緑)

(出典:米経済分析局、2024年4月22日時点のデータ、米モーニングスター作成)

 

 

FRBが「CPIよりPCE」を好む理由>

 

 

 FRBは2000年以来、米国経済の物価上昇圧力を示す主要指標としてPCEインフレ率を採用してきた。ジェームズ・ブラード前セントルイス連邦準備銀行総裁は、その理由をいくつか挙げている。

 

 第一に、PCEデータはCPIデータよりも包括的である。PCEデータには、より広範囲にわたる財およびサービス価格の下位集合が含まれており、農村部と都市部の両方の消費者支出が含まれている。

 

 第二に、PCEのほうがウエイトの更新頻度が高く、消費者の置き換えの動きをよりうまく説明できる。「PCEは新たな技術の影響や消費者支出パターンの急激な変化を素早く反映することができる」とブラード氏は2022年に記しており、その例として、新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生時に見られた、サービスから財への急激な消費のシフトを挙げている。

 

 最後に、政府は新たなデータや測定技法を考慮に入れるためにPCEデータをさかのぼって修正することができる。CPIデータは通常、季節要因を考慮に入れるためにのみ修正される。

 

 

<投資家はCPIとPCEのどちらに注目すべきか?>

 

 

 投資家にはインフレを追跡するための選択肢がたくさんある。CPIインフレ率はPCEインフレ率のデータより先に発表され、ほぼ同じ資料が情報源として使用されているため、ニュースの見出しになりやすい。

 

 「CPIが発表されれば、PCE指数に関するニュースもあらかた世に出たことになる」とコールドウェル氏は指摘する。そのため、CPIデータが予想外に良かったり悪かったりすると、金融市場に強い影響が出ることもある。

 

 しかし、「PCEデータは対象範囲が広く方法論も綿密であるため、物価上昇圧力の様相をより包括的に描き出すことができる」とコールドウェル氏は付け加える。

 

 米ホワイトハウスのエコノミストは昨秋、「ほとんどの物価アナリストはおおむね、置き換えの動きを柔軟に示すことができるPCEの計算式の特性を支持している」と記している。その一方で、「CPIの対象範囲とウエイティングの要素は、消費者の実際の支出により近い傾向がある」とも述べている。

 

 データをどのように切り取るにしても、どちらの指数にもそれぞれ利点があることは明らかだ。年の始まりに向けて予想を上回るCPIが3回発表されれば、投資家はその後の数カ月間、PCEデータを注意深く見守ることになるだろう。

 

※本記事は、米国Morningstarの記事「What’s the Difference Between the CPI and PCE Indexes?」をもとにFinTech Journal編集部が翻訳・再構成したものをFinTech Journalの許可を得てモーニングスター・ジャパンが公開しいます。米国モーニングスターの独占的な権利に属しており、私的利用かつ非営利目的に限定します。また、米国モーニングスター及びその関連会社は、本翻訳記事の利用に関して一切の責任を負いません。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
 
 
(免責事項:本記事は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスではありません。掲載された意見は、原文公開日現在のもので、意見は変更される可能性があります。モーニングスターは、ここに記載されているデータの正確性または完全性を保証するものではありません。モーニングスターは、情報、データ分析、意見、またはそれらの使用に起因または関連する取引の決定、損害、またはその他の損失について責任を負わないものとします。過去の実績は、将来の結果を保証するものではありません。すべての投資には、元本割れの可能性を含む投資リスクが伴います。個人は、投資決定を下す前に、自分の財政状態、投資目的、およびリスクプロファイルを参照して、投資が自分に適しているかどうかを真剣に検討する必要があります。
©2024 Morningstar. All rights reserved. The information contained herein: (1) is proprietary to Morningstar and/or its content providers; (2) may not be copied or distributed; (3) does not constitute: (a) investment advice under applicable law, including, but not limited to, the Financial Instruments and Exchange Act (the “Act”); or (b) any sort of transaction in securities for the account of others, including, but not limited to, any solicitation, negotiation or execution of the transaction, by Morningstar and its related companies; and (4) is not warranted to be accurate, complete or timely. Neither Morningstar nor its content providers are responsible for any damages or losses arising from any use of this information. Past performance is no guarantee of future results. This article has been translated from English to Japanese by SB Creative Group, who is solely responsible for that translation.