日本市場には『世界一魅力的な<小さなポケット>』がある 後編

Morningstar The Long View インタビュー(後編)>

日本市場には『世界一魅力的な<小さなポケット>』がある

長年のアジア株投資家が語る構造変化、新たな株主尊重、日本株への投資機会

ゲスト:

カール・ヴァイン氏 M&G  アジア投資共同責任者

 

聴き手:

クリスティン・べンツ Morningstarパーソナル・ファイナンス/リタイアメント・プランニング・ディレクタ-

ダン・レフコヴィッツ Morningstarインデックス ストラテジスト

 

 

前編に続きゲストはカール・ヴァインさんです。カールさんは、英国を拠点とする資産運用会社であるM&Gのアジアン・インベストメントの共同責任者です。2019年にM&Gに入社、日本およびより広範なアジアの株式戦略の管理チームに所属されています。M&G以前は、2014年に設立されたオックスフォードに拠点を置くブティック型投資会社Port Meadow Capital Managementの共同設立者でした。また、香港SAC Capital Advisors、TPG-Axon Capital、ロンドンと東京のPrudentialでも勤務されました。オックスフォード大学ご卒業です。

 

※ 本稿はMorningstarによるカール・ヴァイン氏へのインタビュー「The Long View」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。インタビューのヴィデオ(英語)はこちら(Carl Vine: The Japan Earnings Story Has Legs | Morningstar )からご覧いただけます。

※ 本稿は情報提供のみを目的としており、特定の投資対象・投資資産などを推奨するものではありません。投資は個人の責任において行ってください。

 

レフコヴィッツ:さて、話題を切り替えて、日本の株式市場への投資アプローチについて少しお話しましょう。Morningstarのマネジャーリサーチチームは、あなたのことをグロース・バリューといった投資スタイルにとらわれず、固執しないと評しています。それが日本の株式市場への最善の方法だと思われる理由をお聞かせください。

 

ヴァイン:正直に言うと、どの株式市場であっても、それが最良のアプローチだと思います。思うのですが、「カールさん、株式や債券の均衡収益の枠組みとなるモデルとは何ですか?」と言われても「キャッシュフローの現在価値はボソボソ……云々」などと答えるほかありません。「グロースやクオリティ、バリューの均衡収益モデルは?」と問われても、「分からない」としか言えません。そんなものはないと確信しています。つまり、バリューやグロースについての会話は、単に非常に多くの酸素の無駄使いなのです。

 

誤解しないでください。沢山の経験を積んできたし、自分で書いたことはないとしてもバリュー関連の本はすべてと言いたいほど読んでいます。バリュー投資を学んできました。実際の価値よりも割安な価格のものを買いたくない人などいましょうか。そしてもちろん、それが私の仕事です。それでも、実際に顧客からベンチマークを上回るように頼まれたときに、同じような特徴を持つ株だけを買うという考えは少しばかげています。

 

もし誰かが私にお金をくれて、「20年後に会おう、頑張って絶対収益をあげて欲しい」と言ってくれれば話は違います。しかしそうではなくて、顧客が私に『特定のベンチマークを上回ること』を望むなら、そのポートフォリオを多くのファクターリスクにさらすのは賢明ではありません。ひとつには、先ほども述べたように、何ごとも予測できないからです――だって、私には特定の期間においてどのファクターが他を上回るかを考えるための枠組さえないのですよ。ちなみに日本株にファクター投資をしたら前年比どころか四半期ごとのリターンの変動ではらわたが千切れてキャリアはそこで終了です。スタイル投資など、間違ったタイミングで間違った行動をすることを顧客に奨励しているとさえ言えます。ですから、もしあなたの仕事がベンチマークに打ち勝つことなら、それは愚かだと私は思います。

 

さて、我々の戦略はというと――スタイルにとらわれないというだけではありません。私はポートフォリオにおいてスタイル上のリスクを取りすぎないように細心の注意を払っています。私は顧客に「申し訳ない。大変な年でした。今年はクオリティ株が良くなかった」とか、「グロースやバリューが然々(しかじか)を達成して、素晴らしい年でした」といった会話をしたくないのです。

 

私が言いたいのは、我々の役目は銘柄選びであり、ベンチマークに対してどの銘柄を保有するか否かという完全に意図的な判断によってリスク管理されるポートフォリオを構築するということです。我々が長期間カバーしてきた企業に集中している場合、一時的ではなく、それらの証券のリスク価格について差別化された視点が持てるようになった時、議論や論争があることを特定していたり、市場が何かを誤って織り込んだり不当に推定していると思われる場合、リスクプレミアムは我々が顧客のために得られるものと考え、その企業固有の賭けのポートフォリオを構築します。我々が呼ぶところの難解なリスクは、ポートフォリオ内のアクティブリスクを推進しています。そうすれば決算期末や定期報告のときに、戦略がアウトパフォームあるいはアンダーパフォームしていても、ポートフォリオに何を行ったか、それらが奏功したか否かに基づいて説明できるはずです。日銀が金利を引き下げたとかバリューがどうなったか等ということを言い訳にしたくないのです。顧客にそういう質が低い説明だけはしたくないと思っています。

 

べンツ:変化が誤って市場に織り込まれているところに焦点を当てていると仰いましたね。現在、市場価格が不当となっているのがどの領域か、お話しいただけますか?

 

ヴァイン:はい。そう、どこでミスプライスが見られるでしょうか?グロースにもクオリティにもバリューにも、そして変化についてもミスプライスがあります。非常に多くの変化が起こっており、多くの事例が見られます。したがって、銘柄選択を一任された者として、アクティブ運用者として、本当に良いことは、企業行動の世代交代のような、これまでのアルゴリズムが設定したものではない種類の変化が起きていることです。つまり、今、昔ながらの人間の裁量マネジャーが、ルネッサンス・テクノロジーズその他のアルゴリズム取引プラットフォームの一団と対峙するチャンスではないかと感じています。

 

変化に関して日本にある機会は徐々に増加するのではなく、非常に大きなものです。例えば、サンリオはハローキティというキャラクターIP(知的財産)を所有しています。おそらくハローキティはご存じですよね。

 

レフコヴィッツ:もちろん、知っています。

 

ヴァイン:そうでしょうとも!さて、ちなみにそのハローキティのキャラクターIPは、1926年頃に誕生したミッキーマウスよりもその50年の歴史で多くの商品を売り上げましたが、ほんの数年前には企業価値10億ドルの企業にありました。これは米国では在り得ないことでしょう。売上をスキー場のような傾斜をつけて見せたわけではなく、10年間連続で毎年売上が減少し、収益も減少、大きな利益を生まない状態でした。同社は日本で、記憶に残る時代を超えたキャラクターIPの構築という素晴らしい仕事を成し遂げたというのに――商業的にあまりうまくいかず、PBRやEV/EBITDAなどの観点からの評価は芳しくありませんでした。

 

そこで我々は、訪れたチャンスを逃さず同社に出向いて、「商業的成功を築く戦略について考える手助けをしたい」と提案をしたのです。同社は今、記録的な利益を上げ、かつてなく世界的に事業を拡大し、見事な戦略を有し、中国や米国などで素晴らしい業績を上げています。コンピューターのアルゴリズムはこのような企業を見つけるのがあまり得意ではありません。我々は同社を非常に長期間カバーしてきたのですから、そのリスクプレミアムは我々のものです。

 

我々は、同社が様々な手を打っていれば、異次元の成長を遂げる可能性があり、株価は50%~100%の値上がりというより、10倍あるいは20倍に上昇する可能性があると見ています。キャラクターIPの価値を考えると、桁違いです。こうした価値を発見するのに真に優れたアルゴリズムやこの種の投資機会を示すスプレッドシートは多くはありません。

 

この変化について私が非常に嬉しく思うことの一つは、株主が発言できるということです。株主が意見を述べる機会を獲得できたのは、一部には我々が行ってきた日本企業へのアプローチや対話の入念な計画の仕方のおかげであると思いたいものです。10年、15年前にはなかったこの状況が、現在は法的要件となっていて、私が25年間望んでいた種類の対話を行うのがはるかに簡単になりました。今では、「御社にはいくつか驚くべき可能性があります。それを十分にご認識ではないですね。利益率を1%から3%ではなく25%にまで引き上げる可能性のある企業戦略と商業戦略における変化を引き出すために一緒に取り組みましょう。御社には可能性がありますから」、と言うことができます。

 

つまり、ある意味での変化のミスプライスとは、株価と潜在的な企業価値とのかい離によって生じる投資機会がどこに存在しているのかを知ることです。企業が公表する数字や概況のどこを見ても、こうした情報は実際には表面に容易に現れません。それを我々が見いだせるのは、実に約25年間、非常に多くの企業を見る立場にあり、何が企業を動かすのか、何が違いを生み出すのか、何が企業の世界的な機会となるのか、そしてもし企業が別の行動をとっていたらどんな結果になっていたかなどを考え続けてきたからです。したがって、変化の要素は、投資へのアプローチ方法、特に企業との対話において、いくつかの素晴らしい機会をもたらしてくれました。

 

レフコヴィッツ:さて、トヨタとホンダについてお伺いしたいのですが、2つの大手自動車会社について、御社でも保有比率の高い銘柄だと思いますが、市場は何を見誤っていると思われますか?

 

ヴァイン:今日のそれに対する答えは、1年前とは大分違うと思います。1年前、両社は我々のポートフォリオで大幅なオーバーウェイトだったはず――そうですね、答えは各社ごとに異なります。ホンダですが、市場が見誤ったのは、大方、単に収益です。我々の投資プロセスの大部分で、好ましい業績予想が必ずしも超過利益を生み出すわけではないと話しています。その素晴らしい業績予想に対して、単純にリスクを織り込もうと考えるのです。言っておきますが、我々の収益予想は世間のコンセンサスを大幅に上回っていました。さて、私の言いたいことは何でしょう。

 

要するに、私の水晶玉は、他の人のよりも優れているわけではないし、私が他の人よりも未来が見える訳ではありません。とは言え、コンセンサスも用いられる純粋なロジックによって桁違いに間違っていることもあります。さて、ホンダに何が起こったかというと、パンデミックの数年間に他の自動車会社と同様、サプライチェーンに大きな問題が発生し、販売台数が30%減少しました。製品の需要には問題なく、在庫は文字通り2日分でした。

 

以前なら、販売量が30%減少すると損益計算書全体に赤字が出るような状況だったでしょう。ホンダが講じたのは、非常に積極的な損益分岐点の引き下げでした。我々の感覚では、そして同社の公な発言でも、損益分岐点の大幅な引き下げは恒久的なものでした。

 

同社が2023年の初めに、「今年の販売量は25%増加する見込みである」と言った時、何らかの理由でコンセンサスには損益分岐点の下限が考慮されていませんでした。したがって、ある期間を通して見るなら――どの業界のどの企業であっても――損益分岐点を下げると、販売量が大幅に増加します。収益への影響は単に直線的な伸びにとどまりません。そして、我々の感覚では――繰り返しますが、この点はあまり明確にはしませんが――会社の損益分岐点に何が起きたかという事実に基づいたアプローチだけで、収益がコンセンサスよりも50%、60%高くなる可能性がありました。実際そうなったのです。株価は2023年の最初の9カ月間、実際には年間を通じて素晴らしいパフォーマンスでした。つまり、コンセンサスは予想の際にその点を見落としていたのです。

 

トヨタはまた別の話で、まったく違いました。ここ数年、トヨタは世界の自動車セクターでちょっとした叩かれ役になっているように見えます――特に電動化のトレンドが始まって以来。理由は、彼らが大胆にも、「これはすべて少し複雑だ」と言うからでしょう。そして、世界中の他社は、「ほらね、とにかく電気にしよう」と言いました。それが解決策というわけです。一方、トヨタはもう少し複雑で、「実際にはいくつか別の取り組みが必要かもしれない」と言い、それを市場が評価しなかったのだと思われます。

 

どうやらトヨタはそのせいで、世界的なロビー団体から実際にはしてもいないことに言いがかりをつけられ、不当にも気候変動を否定する、時代に逆行した企業と烙印を押されるに至ったのだと思います。2023年のトヨタへの我々からの励ましは、「おそらく御社がこの問題について先頭に立って取り組むべきで、テクノロジー・デーを開催してみては?」というものでした。

 

「世界の自動車や投資のコミュニティ、専門家に、御社が世界の全固体電池を率いているということ――モビリティの脱炭素化という複雑な課題に対して実際に結果を出そうと、研究開発プロジェクトに10年、15年取り組んできて得た多くの技術を思い出させましょう」というわけです。トヨタは2023年中にそれを実行に移し、結果的に大きな再評価を得ました。そして今、トヨタに関しては、1年、あるいは1年半前の話とは本当に変わっています。電動化で遅れをとっている状況から、実際に、10年後、15年後を見据えた新しいモビリティに向けて、世界をリードする技術を備えています。

 

つまり、市場の間違いは、テスラの幻影というエコーチェンバー現象の中に留まり、トヨタが実際に持っている技術資産を客観的に見ていなかったことでしょう。もちろん、2023年に有利に働いたのは――おそらく一時的なことで、永続的な傾向とは言えませんが――消費者は現時点では本当に良い反応を示しています。完全電気自動車を競って買う人々が飽和し始め、より広範な大衆市場は、完全電気自動車は少し不安だが、ハイブリッド/プラグイン・ハイブリッドというアイデアは非常に気に入っていると言います。それがまさしくトヨタが最高の結果をもたらす領域で、利益を生み出すのに間違いなく役立ちました。おかげで我々は、利益に若干のポジティブサプライズを得ました。ただし、再評価を得られたのは、新しいモビリティへの技術ロードマップ上で実際にどの段階まで来ているかを、トヨタが積極的な広報活動を通じて自ら示した取り組みの賜物だと思います。

 

べンツ:そこで、個々の企業について見るとして、先ほど言及されたウォーレン・バフェット氏ですが、バークシャー・ハサウェイが日本の総合商社5社に出資しています。この銘柄へのバフェット氏の熱意に共感されますか?

 

ヴァイン:ウォーレン・バフェット氏に対抗するとしたら私は一体何者ですか?もっと早く彼が(日本株投資の表舞台に)現れてくれていればと思いますよ。彼が何に魅了されていたかはこれ以上推測する必要はないでしょう。親愛なるチャーリー・マンガー氏は残念ながら他界されましたが、生前ポッドキャストで語っていましたから。多分、2023年の10月か11月頃だったと思います。「ご覧なさい、私たちのキャリアの中で最大の利回り裁定取引です。PERは1桁台なのにPBR1倍割れで放置されている企業――事業に為替リスクもなく、実に多角的な事業を展開しており、5%の配当利回りを出す企業の株式を1%未満の負債で手に入れました。しかも、この配当利回りを出すために、企業は利益の50%未満しか使っておらず、グローバルな事業展開の実績もあり、米ドルを稼ぎ出す妥当な成長ストーリーも兼ね備えた銘柄です。」彼に言わせれば、これ以上のものはない。というわけで、もちろん答えはイエスです。私も彼らと同様の熱意を持ってきました。

 

バークシャー・ハサウェイが日本で成し得ることは、はるかにたくさんあると思います。同社のバランスシートに見合った規模の、投資アプローチに沿った価値提案となる投資機会があるからです。そして、日本でバークシャーの活動がさらに活発になるのではないでしょうか。そうなったとしても驚きません。

 

レフコヴィッツ:カールさん、御社は日本の中小型株ファンドも運用していますね。典型的には、日本の小型株はより国内志向ではないかと思いますが。小型株式分野のセンスと、そこにどのような機会があるのかについて、興味があります。

 

ヴァイン:私は小型株が大好きです。日本の小型株は、特に、世界の株式市場の中で最も魅力的な小さなポケットだと思います。過去にレフコヴィッツさんご自身のポッドキャストで、世界的に小型株がいかに超魅力的な価格か、ゲストが話していましたね。日本が凄いのは、数の多さだと思います。小型株の企業がたくさんあり、その多くはアナリストにまったくカバーされていません。

 

大型株では、コンセンサスがホンダの収益に関して間違ったロジックを用いているのを見つけるような、非常に頭を使う作業が必要ですが、小型株では、自分一人で注目しているだけで十分賢明になれます。それが新鮮なのです。我々のプロセスで本当に重要なことは、ミスプライスの理由を理解することです。そして、多くの場合、日本の小型株ユニバースでは、単に「誰もその銘柄に注目していない」からだったりします。

 

だから、我々は世界と関わりのある企業を見つけるのです。多くは国内企業ですが、グローバル企業でもあり、売上の20%、30%は成長中の世界中の顧客から得ている企業もあります。そうした企業の多くが割安な株価に放置されていますが、適切な製品を提供して経営がうまくいっている企業です。それは単なる低PBRのシケモク投資ではなく、超割安なバリュエーションで取引されている成長企業であり、商業面およびビジネス面のアプローチに欧米的な戦略を用いれば大化けする可能性もあります。

 

小型株に異常なバリュエーションが見られるのは、純粋に国内に特化した分野に限ったことではありません。それは経営がうまくいっていて、世界的に競争力のある製品を有する企業――通常はニッチな分野の企業ですが――何十年も成長し続け、持続可能な成長を目指している企業もあります。ですから、日本の株式市場の素晴らしさは、本当に異常な価格となっている会社を発掘できるところにあると思います。

 

べンツ:以前はロングショートのポートフォリオを運用されていましたね。もしそれがマンデートの一部だとしたら、日本で何を売りますか?

 

ヴァイン:なんという質問でしょう。それを聞かれると困ってしまいます。まあ、空売りをやめたのには理由があって、それは、企業の勝利や成功を見るほど楽しくはないからです。

 

弊社のコンプラ警察が来て私の手首をひっぱたくかもしれないので、企業名は挙げません。1年または1年半前とは異なり、今は日本の半導体業界周辺では過熱気味の陶酔をちらほら見かけます。日本だけではありませんが、でも日本には確かにあります。半導体製造装置(SPE)の分野では、私が思うに、よほど大きな収益が達成されないことには成立しないようなバリュエーションがいくつかあって、予想されるリスク/リターンからはアンダーウェイトかショートが望ましいとなるでしょう。少し過剰な高揚感があると思います。

 

事実上、日本ではAI(人工知能)テーマ型投資にアクセスするにも投資家にとってAIを活用した手法はあまり多くなく、これといった銘柄もない。つまり、そのような手っ取り早い収益獲得を狙う投資資金は、世界的な競争力を持つ比較的少数の企業、つまり日本で言えば半導体製造装置の分野に集中しているのです。

 

私が言っているのは、日本で最も経営が優れている企業、輝かしい事業展開、基本的なストーリーは素晴らしいが、バリュエーションがこれまでの水準から標準偏差の何倍もかけ離れている企業のことです。そして誤解の無きよう明言すると、私はAIに関しては大の強気です。それでも、かなり急速に投機的な資金が少数の株式に集中しているように感じます。基礎的な収益がさほど成長しておらず、持続不可能なほど膨れ上がっている中国(SPE)の設備投資へのエクスポージャーが相当あるのに、考えてみると、保有するリスクが大幅にミスプライシングされていると私は感じています。というわけで、アンダーウェイトまたはショートでいい領域だと思います。しかし、かなり際どく、現時点でそういった株は非常に不安定です。とは言え、中期的に見れば、おそらく幾分完璧な結果を織り込んでいるのだと思います。

 

レフコヴィッツ:興味深いことに、モーニングスター・ジャパンの同僚にあなたに何について聞いてほしいか尋ねたところ、バリュエーションということでした。彼らが話をしている日本国内のファンドマネジャーには、市場にあるバブルのような投資分野を懸念している人もいるのかと察しますが。

 

ヴァイン:過熱した分野はあると思いますが、全体が過熱しているというわけではありません。そうですね、半導体分野には幾つかの過熱が見られます。不確かながら概して言えば――バリュエーションは不当に低い水準から現在はおそらく妥当な水準まで拡大しており、多くの株で、今後7年あるいは10年でリターンは利益並みに収れんしていくでしょうが、それでいいと思っています。なぜなら、さらに10年間1桁台後半の利益成長が見込めるからです。その後、自社株買いと配当によってさらに成長が促進されるでしょう。日本の株式市場は大丈夫だと思います。S&P500指数に見られるような大規模な一極集中が、日本ではありません。現在米国市場では1999年~2000年のITバブルのピーク時よりさらに進んだ集中化が起きています。日本はそれには程遠い状況です。

 

したがって、世界中の様々な市場のバリュエーションを総合的に見るだけでなく、日本は大丈夫だと見ていますが、純粋にバリュエーションの観点から見ると、日本は1年半前ほど魅力的ではないと思います。しかし、市場構成を見ると、非常に健全です。収益の増加は米国のように7社頼みではなく、企業部門全体によるものです。そして、バリュエーションの魅力は市場全体で見られます。確かに半導体ではバリュエーションがかなり高いように見えるところがいくつか出てきていますが、私には市場全体が危険だとはまだ感じられません。

 

レフコヴィッツ:もう1つカールさん、重要な質問は、中国についてです。日本だけでなく他のアジア市場にも投資する汎アジア株チームも率いるお立場ですから。

 

中国は日本に似た道をたどっており、国力では日本と中国が入れ替わったように見えます。中国は現在多くの課題に直面しているようで、どこかで見たような不動産バブルの崩壊、急速な少子高齢化は言うに及ばずですが、日本との類似点も指摘されています。今中国に関してどのような見解をお持ちなのかとても興味があります。中国と日本の間にある類似点そして相違点とは何でしょうか?

 

ヴァイン:(前編で)通貨の話をしましたが、実は自信のない分野です。そして今からお話する中国で多くの地政学的な論点があり――1年後にこのポッドキャストを聞くと、あの人何を言っているか自分で本当に分かってないんじゃないかと思われそうです。それを前提として、楽しみましょう。いいですね?

 

さて、いつもの「ご留意ください」はさておき、私は株式市場が今後1~2年でどうなり、そしてどうのこうの等と予測するつもりはありません。ですから、こんな前置きは抜きに、楽しく行きましょう。思い切って批判を恐れずに言うと、私は中国株については基本的に強気です。特に分散されたグローバル株式ポートフォリオを前提に言えば、私なら個人的には中国株をオーバーウェイトするでしょう。もちろん中国にリスクがあるのは承知しています。リスクの中身は広く知られており、長い間議論されてきたと言えるでしょう。投資家としては、リスクそのものとリスクの評価を区別することが重要だと思います。

 

中国では昨年あたりから、経済と株式市場の両方で多くのリスクが顕在化していますが、かなり前から知られていたリスクです。5年前には大きな懸念だったかもしれませんが、そのリスクが非常に極端に株価に織り込まれている現在ではそれほどではありません。現在の中国の株式リスクプレミアムは膨大です。中国の地政学を心配しないと言っているのではなく、もちろん心配です。本当に心配です。そして、それがどうなるかに関して、私には強みはありません。私に言えるのは、それを引き受けるためにかなりのリスクプレミアムが上乗せされているということです。したがって、私は中国が行うのはXかYかというようなデジタルな二元論を展開したくありません。すでにリスクが顕在化して株価に織り込まれているという観点で、特に中国株式市場の相関特性を考慮すると、グローバルなポートフォリオの観点では、非常に興味深いと思います。

 

では、中国にはどのような問題があるか?地政学ですね。これについては、チャットGPTで確認できること以上に言っておきたいことはないです。そしてもちろん、不動産です。不動産については――繰り返しになりますが、特に過去20年間の経済政策において、不動産に関して中国がどれほど多額の資本を誤って配分してきたかを過小評価しないようにしましょう。膨大な額です。日本よりも多いか少ないかについては様々な意見がありますが、それは本当に巨額で、問題であることは周知の事実であるとだけ言っておきましょう。中国は現在、資産の再配分という痛みを伴うプロセスを経験しています。遅ればせながら苦い薬を服用しているのです。

 

1年前なら、中国がこの不動産問題の資産再配分に乗り出すということが関心事でした。この歴史的かつ途方もない資源の誤配分は、シャドーバンキングシステムと通常の銀行システムの両方で金融システムの問題が発生することになるため、実に怖いことです。住宅用不動産価格が30%、40%下落し始めると社会に何が起こるか、システミックな崩壊が起こる可能性もありました。だから人々は本当に懸念し、それが価格に織り込まれました。

 

では、そこから1年後の今、何が起きたでしょう?さて、深センの住宅価格は30%下落しています。ちょっとした愚痴が飛び交い、抗議の声も多少上がっていますが、経済はまだ崩壊していません。不良債権が、死屍累々たる惨状ですが、経済はまだ保たれています。1年前、25歳以下の若年階層の失業率は文字通り25%でした。怖がって当然です。今では12%、13%――まだ怖い数字ですが半減しました。

 

私が思うに、投資は列車の発着時刻のように明確にはいかないものです。言うなれば、今、時計の文字盤のどこに針が来ているのかわからないのです。この調整段階はまだ終わっていません。まだです。私たちは順調にこの行程を進んでいて、脱輪もしていません。でも、この展開と、痛みを伴いますが比較的秩序ある状況が続いているという事実を踏まえると、リスクプレミアムが十分に市場に反映されてはいないと感じています。まだ、予期せぬ結果が起こる世界に突入していません。したがって、世界クラスの企業、今後何年間も10%~20%の成長が期待でき、強固なバランスシートと改善されたガバナンスを備え、PER8倍から15倍の間で売買されている企業を見ると、グローバルな視点からはとてもエキサイティングだと言うしかありません。

 

レフコヴィッツ:では、カールさん、「The Long View」に来てくださって、どうもありがとうございました。素晴らしかったです。

 

ヴァイン:どういたしまして。すみません、ちょっと長いLong Viewになりました。私は長くなりがちで、それについてはお詫びいたします。

 

べンツ:いえいえ、カールさん。とても興味深いお話でした。来てくださって感謝いたします。

 

ヴァイン:素晴らしい質問をありがとう。

 

※ 本稿は情報提供のみを目的としており、いかなる投資アドバイスをも目的としていません。表明された意見はヴィデオ収録日時点のもので、その後変更されることがあります。この番組でのゲストの見解や意見は、必ずしもMorningstar, Inc.およびその関連会社のものではありません。ゲストは、モーニングスターおよびその関連会社の製品およびサービスをライセンス供与または提供する場合がありますが、特段明記されていない限り、ゲストはモーニングスターおよびその関連会社と提携していません。モーニングスターは、ここで言及されているデータの正確性または完全性を保証するものではありません。モーニングスターは、情報、データ分析、意見、またはそれらの使用に起因または関連して生じた、いかなる取引の意思決定、判断、損失、損害に対しても責任を負いません。過去のパフォーマンスは将来の結果を保証するものではありません。すべての投資には、元本割れの可能性などの投資リスクが伴います。投資家は、投資判断を下す前に、自らの財務状況、投資目的、リスク特性を考慮して、投資が自分に適切かどうかを真剣に検討する必要があります。投資はご自身の責任において行ってください。

 

※ インタビュアーは、この記事で言及されたいかなる有価証券も保有しておりません。