トランプショックに狼狽せず:データが示す個人投資家の成熟と長期投資の重要性
2025年4月8日 モーニングスター・ジャパン マネジャーリサーチ部長 元利 大輔
トランプ関税発表後の市場は混乱を見せています。4月7日の日経平均株価終値は3万1,136円58銭となり、3月末比で12%の下落となりました。米国株式市場も同様に下落しており、足元の市場動向に不安を感じる投資家は少なくないでしょう。
市場の急落といえば、昨年8月の出来事が想起されます。当時はわずか数日間で日本株式市場が急落し、急速な円高も進行しました。これを受け、投資信託市場からは一時的な資金流出が見られました。昨年8月の急落では明確な要因を特定することが困難でしたが、今回の急落にはトランプ関税という明確な要因が存在します。したがって、昨年8月以上に投資信託市場からの資金流出が生じても不思議ではありませんが、実際の資金動向はどうなっているのでしょうか。
まず、月初5営業日目までの投資信託(※)の推計純資金流出入額を見ると、2月と3月には5,000億円超の流入があったのに対し、4月は4,350億円と減少しています。しかし、大幅な減少とは言えません。月初には積立投資の設定が多くなる影響を考慮しても、依然として資金流入となる水準であり、個人投資家の投資信託への投資意欲は底堅いと言えます。この点は昨年8月と同様の傾向です。
各営業日の推移を見ると、5営業日目までは全て純資金流入を記録しています。昨年8月とは異なり、この時点までのデータでは資金流出は確認されていません。昨年8月には、市場の動揺から売却に走る投資家が少なからず見られましたが、今回は多くの投資家が冷静に保有を継続していると考えられます。過去の急落経験が、今回の冷静な行動につながっているのかもしれません。
分類別に見ると、「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」や「eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー)」といった米国株式および全世界株式のインデックス型ファンドが上位に位置しています。これらは、月初の積立投資の設定が大きく反映された結果です。米国株式および全世界株式のインデックス型ファンドには引き続き資金流入が見られるものの、その流入額は2月、3月と比較すると減少しています。積立設定の解除による影響は限定的と考えられるため、市場の不確実性から成長投資枠等を利用した新規購入を控える投資家が少なくなかったと推察されます。
日本株式については、依然として逆張り的な投資行動が見られます。日経平均株価連動型のインデックス・ファンドを含む国内株式・大型成長型ファンドには、4月に900億円を超える資金流入がありました。また、日本株式のブル型ファンドを中心に、ブル・ベア型ファンドにも250億円の資金流入が見られます。世界的な株式市場の混乱を受け、安全資産とされる金も資金を集めており、金(ゴールド)ファンドを含むコモディティにも200億円を超える資金流入がありました。一方、昨年8月とは異なり、100億円を超える資金流出が見られる分類はありませんでした。
全体として、今回の市場下落は昨年8月とは異なり、投資家は比較的冷静に対応している印象です。市場が急落した際に慌てて売却することは、その時点での損失(または未実現利益)を確定させ、その後の運用機会を放棄することに繋がります。長期的な資産形成を目的として投資を行っているのであれば、まずは冷静に保有を継続することが賢明な判断と言えるでしょう。
(※)日本籍の公募投資信託のうち、確定拠出年金専用、およびファンドラップ/SMA専用ファンドを除きます。