<The Long View インタビュー> キャシー・ストークス氏が語る あなたを狙う詐欺から身を守る方法(前編)
急増する投資詐欺、狙われているのは高齢者だけではない
世界最大の高齢者によるNPO「AARP」の詐欺防止担当ディレクターが、暗号資産関連の詐欺の脅威の高まり、最もリスクが高いのは誰か、投資家が注意すべき詐欺の手口について語ります。
今回のゲストはキャシー・ストークス氏(以下敬称略)です。キャシーは世界最大の高齢者によるNPO「AARP」の詐欺防止プログラムのディレクターであり、詐欺が高齢者の経済的な安定にもたらすリスクについて高齢者を教育するAARPの取り組みを主導しています。キャシーは現在、国際金融犯罪捜査官協会理事会の諮問委員、および北米証券監督者協会の高齢者問題委員会の諮問委員を務めています。キャシーは、連邦準備制度理事会の詐欺情報の共有に関するワーキンググループにも参加しています。AARPに参加するまでは、自身の会社であるKSM Communicationsを経営し、ブルッキングス研究所、アーンスト・アンド・ヤング、マーサー、従業員福利厚生研究所で広報のさまざまな役割を果たしました。ピッツバーグ大学で修辞学とコミュニケーションの学士号を、ジョンズ・ホプキンス大学でアメリカ政府の修士号を取得されました。
(※AARPは、50歳以上の会員を持つ全米、そして世界最大の高齢者によるNPOである。以前は「American Association of Retired Persons(全米退職者協会)」であったが、1999年から「AARP」が正式名称となった。)
ゲスト: キャシー・ストークス氏 NPO法人AARP 詐欺防止担当責任者
聴き手:
クリスティン・べンツ Morningstar パーソナル・ファイナンス/リタイアメント・プランニング・ディレクター
エイミー・アーノット Morningstar ポートフォリオ・ストラテジスト
クリスティン・ベンツ:こんにちは、「The Long View」インタビューへようこそ。私はクリスティン・ベンツ、モーニングスターのパーソナル・ファイナンスおよびリタイアメントプランニング担当ディレクターです。
エイミー・アーノット:モーニングスターのポートフォリオ・ストラテジスト、エイミー・アーノットです。
キャシー・ストークス: お招きいただき、誠にありがとうございます。
<年金に恋をして歩んできたキャリア>
ベンツ:今回のテーマは重要なものです。まず、あなたの経歴と、AARPの不正防止ディレクターという現在の役割にたどり着くまでのいきさつを教えていただけますか。このテーマに興味を持ったきっかけは何ですか?
ストークス: そうですね、私は常に金融問題、金融教育、リテラシーに興味を持っていました。私はキャリアの中で早くから年金に情熱を注いでいました。少し奇妙に聞こえるかもしれませんが、私はワシントンDCで医療と年金の問題に焦点を当てた非営利団体に就職していました。私は健康・医療分野の担当として雇われたのですが、着任初日に、上司から「年金をやってもらうよ」と言われました。
私は「えっ、年金って何?」と思いました。そこから、政策から見た年金というものと恋に落ちたのです――確定給付型から確定拠出型の世界への年金政策移行が、米国労働者が将来迎える退職にとって何を意味するのかという懸念が主因です。結局、ジョンズ・ホプキンス大学の大学院の学位を取得し、年金や401(k)プラン、21世紀に向けた変化など、様々な関連するテーマについて書きました。そして、私はそれが大好きでした。
その後、大手会計事務所であるアーンスト・アンド・ヤングに転職して金融教育を自ら行うようになりました。当時は全国的な慣行があり、大口のクライアントやその従業員に対して、401(k)、年金、資金状況把握法などについて教育していました。つまり、政策を草の根の現場まで啓蒙するわけです。その後独立して自分の会社で10年間ビジネスを続け、金融リテラシーや金融教育の分野で多くのことを行いました。AARPは当時の私の最大の顧客の1つでした。正直なところ、私は一生自営のままでいるつもりでしたが、健康上の問題があり、医療費負担適正化法があっても保険料の負担が大きすぎたので、AARPに就職することにしました。
それは文字通り、嵐の中で緊急避難する港のようなつもりでした。もう勤め人に戻る気はなかったし、正直なところ、最初の1年は、自分は退職後の教育を任されたはずなのに、何をしたらいいのかさえ全く分からずにいました。ところが私が入って2年目に、AARPは詐欺被害防止の分野で行っているすべての取り組みについて注目するようになり、2018年にはそれらを刷新しました。
私はその部署で最初の仮のディレクターとなり、かつて年金問題に没頭したのと同じくらい、詐欺防止というテーマに心を奪われました。それは実に理にかなったことだったようです。振り返ってみると、労働者がより安全に退職後の生活を送るための資産形成支援として、私はずっと働いてきたのだと気がつきました。そして今、この国では多数の退職者が詐欺が頻発する環境におかれ、老後の経済的安定が本当に大きなリスクにさらされているのを私は目の当たりにしています。
<あまりにも過小評価されている被害>
アーノット: 本題に入る前に、さまざまな種類の詐欺について、また投資詐欺と金融詐欺との違いについて、整理しておきたいと思います。投資詐欺は金融詐欺の一種とみなされますか? 例えば、家族や介護者が高齢の親から資産を盗むという話をよく耳にします。しかし、それは必ずしも投資詐欺ではありませんよね?
ストークス: その通りです。それは資産の搾取(経済搾取)です。AARPでは、投資詐欺と別のものとして見ています。これらのことを語るとき、様々な組織がちょっとずつ違ったとらえ方をしているため、非常に分かりにくい状態にあります。とはいえ、経済搾取について話すときには、良く知られた加害者が存在します。たとえば、成人した息子、悪徳弁護士、または特定の高齢者からお金を盗んでいる有給の介護者などです。
そして、もうひとつ、私が一般的に「見知らぬ人による危険」と呼んでいるものがあります。通常、ある日突然問題が発覚し、経済的に解決する必要があると知らされます。こうした問題の影には、投資アドバイザーや金融ブローカーを装い、人々からお金をだまし取ろうとする輩がいます。投資詐欺はアドバイザーやブローカーによって行われる場合も無きにしもあらずですが、多くの場合は、犯罪者が何かの職業の誰かのフリをしているに過ぎないことは間違いありません。
ベンツ: AARPは、2023年に50歳以上の人々が投資関連の詐欺により合計9億5000万ドルを失ったという記事を掲載しました。この数字は過少評価で、実際はもっと被害が大きい可能性があるのではないでしょうか? というのも、一部の高齢者は詐欺に遭ったことを恥だと感じて報告できないかもしれないし、または単に被害に気がつかずにいるかもしれないと思うのですが。
ストークス:私は 「彼らは詐欺に遭った」というような言葉も使いません。そういう言い方は、被害者が誰かに騙され、操られたという印象を与えるからです。起こっているのは、犯罪です。犯罪者や犯罪者集団は、意図的に被害者を標的にして真実ではないことを被害者に信じさせ、被害者からお金を盗みます。被害者が経験したことは犯罪なのです。人々が「欺かれた」「だまし取られた」「詐欺にひっかかった」などと言ったり、認知能力に疑問を抱いたりすることで、私たちは問題の本質を見誤ってしまいます。起きていることを犯罪として見る必要があります。
おっしゃる通り、羞恥心は年齢に関係なく絶対に大きな要素です。米連邦取引委員会(FTC)のデータによると、詐欺の被害の報告については、実際に若年層の方がお金を失うことが多いとされており、この結果を考えると本当にびっくりするでしょう。なぜなら、一般的には社会の富は高齢者層により多く傾斜しており、現実には高齢者が被害者である場合、被害額ははるかに多くなる可能性があるからです。
アーノット: その通りです。クリスティンは先ほど、9億5000万ドルという推定額に言及しましたが、ここ数年で投資詐欺がかなり劇的に増加しているようです。増加の理由についてどうお考えですか?
ストークス: ええ、9億5000万ドルは、誰が見ても非常に過小評価された数字です。連邦取引委員会によると、2023年の損失総額は――お金はなくしたのではなく盗まれたのですから、私は「損失」と呼ぶべきではないと思いますが、――100億ドル前後と見積もっています。パンデミックの直前の24億ドルからの増加ですから、堰を切った勢いで増えています。もっとも、専門家が過少報告であると推測していることを考慮すると、FTCは2022年の被害はおそらく1370億ドル程度だったのではないかと考えています。この数字をじっくり考えてみてください――1年間で1370億ドル、この犯罪によってこれだけのお金が我々の経済から失われています。投資詐欺は暗号資産の隆盛によって巨大化しており、それが、最近我々の目に突出して飛び込んできています。
<あなたを信用させようとする巧妙な手口>
ベンツ:消費者に対して詐欺を仕掛ける人々にとって、暗号資産は特に豊かな鉱脈となっていると思いますか?
ストークス: そうですね、2、3年前、スーパーボウルの広告が暗号資産でお金持ちになることに関するものばかりだったときから、それは完全に常態化していました。犯罪者たちはその流行に便乗するだけでよかったのです。何か新しいものが登場し、消費者がそれについてよく知らない場合何でも信じ込ませることができるので、それは犯罪者にとってまさに宝の山です。暗号資産は今、そのような分野のひとつです。
私が理解している限りでは、主に中国(※原文ママ)の集団が暗躍しています。彼らは、犯罪の原因と結果の両極で犠牲者を生みます。職を求める人に仕事を与えるという口実で人々を奴隷化し、実際には詐欺電話のコールセンター要員として雇います。電話をかけたり、オンラインで人を見つけたり、誰かと友達になろうとするためだけに通話や通信を交わし、とあるテキストを誤送信のフリをして見知らぬ誰かに送り付けます。そして、その人と親しくなり、相手から人生で信頼される人になっていくと、誤送信した書類の件を利用して、「ねえ、私がどれだけ大きく稼いでいるかわかるでしょう。私は暗号資産への投資の専門家だから、あなたがやってみるなら手伝ってあげる」と誘導し――こうしてすべてが始まります。信じられないほどの額のお金がこの手口によって失われ、盗まれました。被害者はすべてを失っていきます。「すべて」というのは、まず持っている現金をすべて最初の投資につぎ込み、やがて子供たちのために投資していた教育資金からお金を引き出し、住んでいる家を再抵当に入れ、文字通り「すべて」を失うのです。
アーノット: では、私たちがよく耳にする「ピッグ・ブチャリング詐欺」とは、誰かが感情的なつながりを築いて信頼を得てから、それを利用して相手を搾取するというものを指すのですか?
ストークス: まさにその通りです。ただし、私はその言葉を使いません。一度被害にあった犠牲者に対してそんな呼称を用いてもう一度傷つけるのは、あまりにも残酷です。いいですか、詐欺師たちがそう呼ぶことで生まれた言葉で、犯罪者の側に立った呼び方なのですよ。私は「ファイナンシャル・グルーミング」(お金のための接近、手なずけ行為。※グルーミングは性暴力の加害者が被害者に接近し信頼させ、洗脳する場合などにも用いられる用語)という言葉を使用しています。この言葉は、今起こっていることをずっとハッキリと説明していると思います。
ベンツ:ある専門雑誌に、数週間前に投資詐欺について非常に優れた記事が掲載されていましたが、その内容はキャシー、あなたが話してくださったこととそっくりの内容でした。孤独な高齢者を搾取対象とするものでしたが、投資詐欺としてはよく似ており、記事で紹介されている被害男性は本当に彼の全財産を賭けていました。多分外国為替関連を標榜したものだったと思いますが、指南役からの誘導によって被害者の退職後のための資産をまるごと、効率よく犯罪集団に送る手口だったと思います。
ストークス: それが現実に起きていることです。孤立や孤独は疫病のようなものです。あれこれ話す相手がおらず、社会との定期的な接触を失ったとき、かかってくる電話は誰かと会話をかわすチャンスです。誤って送られてきたテキストは、誰かと関わる機会となります。たとえそれが、単にオンラインで自分と同じような興味を持つ人々とつながるだけのことでも。それは、私たちが孤立しており、孤独で、寂しいからこそ、はまってしまう罠です。そして、ここで感受性――人からの影響に対する脆弱さが大きな役割を果たすのです。
アーノット: 人工知能(AI)の発達によって、この種の盗難がより広まったり、被害者がおかしなことが起きていると見破るのが難しくなったりしていると思いますか? おそらく5年、10年ほど前にも詐欺メールは届いていましたが、それが詐欺であることは一目瞭然でしたよね。なぜなら、それらは明らかに文法が間違っている片言の英語で書かれているので、無視するのがはるかに簡単だったからです。
ストークス: おっしゃる通りです。生成型人工知能(EVI)を使えば、今では完璧なメール、完璧なテキストメッセージを作ることができるようになりました。これを使用して静止画をアニメーション化し、運転免許証の私の写真が実際にあなたに話しかけているように見せ、まるで本物のように見せることができます。さらに、ボイス・クローニング(合成音声)があります。
最近、私たちの被害者支援プログラムのひとつとして行われたZoomによるセッションに参加した女性が、彼女が経験したロマンス詐欺について話してくれました。加害者は、アメリカの軍隊に所属して海外で働いているフリをしている人物でした。その人物は、彼女からすべてを盗みましたが、彼女の場合は約4万ドルほどだったと思います。それが詐欺であり、実際はインドからのものだとようやく気づいたとき――彼女の同僚の何人かは、それがインドに拠点を置くと彼女に言っていたのですが――彼女は「そんなことは、あり得ない」と思ったそうです。その男性と毎日通話をしていたのですが、彼はアメリカ人のように話していました。彼女は、彼がAIを使って言葉に訛りがないようにしていたからだと信じています。
<自助努力で築いた老後資金が狙われている>
ベンツ: キャシー、あなたは年金に関する以前の仕事や、この国で経験した確定拠出年金制度への移行について関心を持っているとおっしゃいました。その移行によって、今では50年前とは違って、資産管理を自分でする人々が出てきました。高齢者の投資詐欺に対する感受性に確定拠出年金がどのように影響したかについて、あなたの見解をお聞かせください。年金制度の観点から、それが投資詐欺被害を高齢者がこうむる可能性を増大させたと合理的に考えられることについてお話しいただけますか?
ストークス: 90年代初頭から半ばにかけて年金制度について考えたり書いたりしていたとき、詐欺に対する脆弱性や感受性についてなどは全く考えたことはありませんでした。気にも留めていなかったのです。ところで、1950年代以前に退職した人は全員年金を持っているという思い込みが世間でまかり通っていますが、そうではありませんでした。ですから、いつだって退職者の大部分は自分でお金をやりくりしています。しかし、今やそれに輪をかけてずっと多くの人が自分で老後のための備えをするようになっています。
誰がいまだに年金をもらえるのか? と聞かれたら、「私はもらえます」とAARPで答えられることをとても誇りに思います。年金を受け取る権利を得るのに十分な期間アーンスト・アンド・ヤングで勤務したことを私は非常に誇らしく思いますが、ほとんどの人はそうではありません。ですから、雇用主が投資を管理してくれるのではなく、プロバイダーが毎月送金してくれるのでもない多額の老後準備資金が、世の中に現金としてそこら中にあふれています。そのため(老後への自助努力が常識となった現在金融詐欺が増加していることは)、起こるべくして起きていることでしょう。
アーノット: 投資詐欺やその他の種類の詐欺は、高齢者だけでなく、若い世代にも影響を与えているとおっしゃいました。しかし、被害に遭った人々や、この種の詐欺に対してより脆弱な人々の間には、何か共通点があるのでしょうか?
ストークス: 私は、標的にされ、被害を受けている人々についてではなく、詐欺攻撃の共通性について述べたいと思います。多くの人は、これらの犯罪者たちが詐欺のマニュアルを持っていることを理解していません。かつては個別の悪党が用いた手段を、今では国際的な犯罪集団が使っています。それは、恐怖であれ、パニックであれ、「あなたの孫が何か問題に巻き込まれ、今すぐあなたの助けが必要です」といって、ターゲットを差し迫った心理状態に陥らせます。
いわば興奮状態です。「宝くじと車にたった今当たった!」という興奮、「使用中のコンピュータが今まさに恐ろしいウイルスに乗っ取られたかもしれない!」という恐怖。誰かを感情がひどく高ぶった状態に陥らせることを、犯罪者は「エーテルを嗅がせる」と呼んでいます。なぜなら、高ぶった感情に脳を支配されてしまうと、人は一歩退いて論理的な思考をすることが難しくなることを犯罪者たちは知っているからです。つまり、被害者の脆弱性についての共通項よりも、犯罪者が操りだす戦略マニュアルを知る方がずっと重要なのです。
<標的は高齢者とは限らない>
ベンツ: 私は、老化という事象や年をとると何が起きるのか、そして様々な認知機能低下を引き起こす老化の役割について訊きたいと思います。おそらく、あなたは老化がどの程度詐欺被害の要因になるかをご存じでしょう。そして私の想像ですが、もうひとつ別の要因として、高齢者は自分が年をとるということを信じたくない場合が多いのではないかと思います。老化によって能力や活力が衰えていくこともあると思いますが、そうすると私たちは、年をとるにつれて本能でそれを否定するのだと思います。誰も老いについて考えたくないのです。そのため、安全対策を講じるのを先延ばしにします。でも、こうした年齢を重ねるにつれて起きる認知機能の低下や判断力の鈍化について、その様々な側面から議論をして全体像を描けるかもしれません。
ストークス: そうですね、私は神経科医でも脳研究者でもありませんが、これについてはたくさん読みました。ぜひ肝に銘じていただきたいのは、詐欺被害はどんな側面から見ても、人々が想像しているような認知機能の低下の問題ではないということです。実際に詐欺にあった被害者にとっては、はるかに幅広いリスクなのです。もしこうした詐欺が高齢者のみに起こっただけなら、老化に伴う脆弱性について何か言うべきことがあるかもしれませんが、これは高齢者に限ったことではありません。これらの犯罪には人口統計学的な境界はありません。彼らはすべての人を標的にしています。
そして、私たちの対応はといえば、長い間、高齢者だけに起こることで、認知機能が低下しているせいだと思い込んでいて、そのため自分たちには決して起こらないと言えたということです。でも、今は状況は変化してきていると思います。メディアは、詐欺や犯罪の巧妙さについて非常に多くの報道をしており、目にする機会が増えています。私たちは5月に全国規模の調査を行いましたが、お金、あるいは機密性の高い個人情報を盗まれるという詐欺の被害を経験した人の割合は、たしか42%だったと思います。91%の人が詐欺を心配しています。これは大きな発見で、私たちが最も心配しているのは、自分自身が被害者になるかもしれないということです。これには良い面と悪い面があります。悪い面とは、詐欺が蔓延して、私たちがそれを恐れているということです。一方、良い面とは、私たちは恐れているからこそ、おそらく、攻撃から身を守るために、もっと防衛する行動を何かしら実践していくだろうということです。
<洗練された投資家も例外ではない>
アーノット: あなたは、これらの犯罪の最大の加害者として海外の組織について言及しました。この種の詐欺行為によって誰が利益を得ているのかについて、他に一般化できるものはありますか?
ストークス: ええ、中国と名指ししてしまいましたが、もちろんそれだけではなく多数のグループが、ミャンマー、カンボジア、インド、アフリカ、コスタリカ、カナダその他のいずれの場所からであっても、多国籍犯罪組織によって動かされています。しかし、米国の現場には、これらの犯罪者集団をほう助し、教唆している多くの人々が存在します。法執行機関は、「彼らは海外にいるから、いずれにせよ打つ手はないのです」という決まりきった反応を返してきますが、これは近視眼的な対応です。なぜなら、国内の現場には大勢の実行犯がいるので、彼らを逮捕し懲役刑を課すことができるし、そうすることで詐欺ビジネスモデルの破壊に手を付けることができるからです。
ベンツ: これらの投資関連の詐欺に対して最も脆弱なのは誰かというエイミーの質問について、フォローアップしたいと思います。数年前に見た研究によると、実際にはある程度洗練された投資家、例えば全くの初心者ではない投資家や、時には初心者とは異なる形で脆弱な投資家について指摘がありました。個人の(金融についての)洗練度に対する認識レベルや、それが投資詐欺に対する感受性とどのように相互作用するかについてのデータを見たことがありますか?
ストークス: はい、私が入社する以前の2016年か2017年に、AARPがその研究の一部に関わっていたことを覚えています。その研究は、投資についてより多くの知識を持っている人々は、たとえば「自動車事故が起きた」と聞いたときのように(自分は大丈夫だという)誤った安心感をもっていることを示唆していたと記憶しています――ほとんどの場合、事故は家から5マイル以内で起きているのに。私たちは快適で、その空間にいることに慣れているので、運転中にふと注意力を欠いてしまうのかもしれません。おそらく、自分の能力を信じきっている洗練された投資家と似ているのではないでしょうか。
アーノット: 投資関連の詐欺の多発地帯となっている分野には、貴金属、コイン、商品(コモディティ)等があるようです。これらの分野がより一般的に詐欺の中で利用されているように見える理由について、もう少し詳しくお話しいただけますか?
ストークス: 私たちがそれについて研究をしたかどうかはわかりませんが、いくつかの大まかな仮定を立てることはできます。その一つは暗号資産で、あまりにも加熱しているため、犯罪者が容易に利用できるということです。基本的に、分野の投資についてあまり知識がなければ、人々はどんなことでも信じてしまうのです。貴金属なども同様で、犯罪組織は利用できそうなものなら何でも使うと聞いています。また、貴金属の場合、一部の犯罪組織では、暗号資産詐欺に人々が気づきはじめたと感じて、貴金属に乗り換えたと私は理解しています。ですから、何を利用するかは単に機会の問題でしょう。政府に対する信頼の欠如という現在の米国の国民感情と少し関係があるかもしれません。それが経済システムへの信頼の欠如につながっているのかもしれません。そして、それがこれらの犯罪者たちが人々を心理的に操る糸の一部なのかもしれません。
<後編につづく>
※ 本稿はMorningstarによるキャシー・ストークス氏へのインタビュー「The Long View」をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。翻訳と原本に差異がある場合は原本の内容が優先されます。インタビューの原本(英語)とポッドキャストへのリンクはこちら(Kathy Stokes: How to Protect Yourself from Investment Fraud | Morningstar)からご覧いただけます。
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