史上最強の投資家ウォーレン・バフェットが貫く「投資5原則」、投資する銘柄はこう選ぶ

― バークシャー・ハサウェイが投資する企業に共通する遺伝子コード ―

「投資の神様」として知られる米著名投資家ウォーレン・バフェット氏。2020年に日本の総合商社の株式を取得したことをきっかけに、日本でも注目される機会が増えた。今回は、同氏が率いる世界最大級の投資会社バークシャー・ハサウェイのポートフォリオを構成する企業の共通点から導き出した、バフェット氏の「投資原則」を解説する。

執筆:エイミー C. アーノット モーニングスター・リサーチ・サービシズ ポートフォリオ・ストラテジスト

 

翻訳校正:FinTech Journal編集部

 

<目次>

  1. 「買いたいのは株式ではない」
  2. 何よりも重視する「エコノミックモート」とは何か?
  3. バフェット氏が経営陣に求める素質、どこの誰を称賛?
  4. バフェット氏が絶対近づかない企業の特徴
  5. 財務諸表を「役立たずよりひどい」と批判する理由
  6. IBMやアップルは例外、バフェット氏が敬遠する業界
  7. 「シンプルだが簡単ではない」からバフェットが提唱する方法

※本記事は、米国モーニングスター社の記事「The DNA of a Warren Buffett Company」をもとにFinTech Journal編集部が翻訳・再構成したものです。米国モーニングスターの独占的な権利に属しており、私的利用かつ非営利目的に限定します。
※ 本記事は情報提供のみを目的としており、いかなる投資をも推奨するものではありません。投資は個人の責任において行ってください。

 

<「買いたいのは株式ではない」>

 インデックスファンドがアクティブ運用を上回る状況が続く時代にあって、バークシャー・ハサウェイの会長兼CEOであるウォーレン・バフェット氏は、おそらく史上最高の投資家である彼のレガシーを守り続けている。

 バフェット氏はこれまでにたびたび、自身の1つの核となる原則についてこう書いてきた。「買いたいのは株式ではなく、企業を構成する要素だ」と。

 だが、偉大な企業の特徴とは何だろう? バフェット氏に尋ねれば、彼は5つ答えるだろう。

 ここでは、バフェット氏が約70年前に投資キャリアをスタートさせて以来、重視してきた重要な特徴を掘り下げてみよう。

 

<何よりも重視する「エコノミックモート」とは何か?>

原則1:エコノミックモート

 バフェット氏は何よりも、持続力のある競争優位性、すなわちエコノミックモートを持つ企業に注目している。城を水や乾燥地で囲んで敵の侵入を防ぐように、エコノミックモートは企業を競合他社による侵害から守る。(編集注:エコノミックモートとは、「経済的堀」と訳され、企業の競争力の強さと持続可能性を表す概念)

 バフェット氏は、長年にわたって書いてきた膨大な株主宛て書簡で、製造コストの低さ、規模の経済、競合他社が真似できないユニークな製品、卓越した流通システム、強力なブランドアイデンティティーなど、いくつかの重要なモート(=堀、参入障壁)の源泉について説明してきた。

 バークシャー・ハサウェイの投資先の例を挙げよう。

 

  • バークシャーの子会社である米保険大手ガイコは、営業担当者を雇うのではなく保険を直接販売することで、持続力のあるコスト優位性を享受してきた。

 

  • コカ・コーラは、強力なブランド、広範な流通網、他の飲料に乗り換えない何百万人もの顧客から利益を得ている。

 

  • アップルは、細心の注意を払って維持されているエコシステム、好ましい人口動向、なくてはならない製品を誇っている。

 

<バフェット氏が経営陣に求める素質、どこの誰を称賛?>

原則2:優れた経営陣

 バフェット氏はまた、優れたCEOのいる企業も探し求めている。

 バフェット氏が求める資質とは、誠実さ、財務規律、品質へのこだわり、実力の範囲に集中すること、そして、変化への抵抗や誤った買収、気まぐれなビジネスリーダーに迎合する、同業他社の戦略を見境なく模倣するなどの「制度上の要請」に陥ることなく、独自に考えることである。

 バークシャー・ハサウェイの投資先の例を挙げよう。

  • ワシントン・ポスト社(現グラハム・ホールディングス(GHC))の故キャサリン・グラハム氏と故ディック・シモンズ氏。バフェット氏は、両氏の経営手腕、誠実さ、株主を大切にする献身ぶりを称賛している。

 

  • キャピタル・シティーズ/ABCの経営者だった故トム・マーフィー氏と故ダン・バーク氏。彼らの能力、誠実さ、経営と買収の両面の手腕により、バフェット氏は両氏を彼がこれまで見た中で「最高の経営者コンビ」と呼んでいる。

 

  • コカ・コーラの会長兼COOだった故ドナルド・キーオ氏。彼の商才と周囲の人々の能力を最大限に引き出す能力をバフェット氏は称賛している。

<バフェット氏が絶対近づかない企業の特徴>

原則3:思慮深い資本配分

 この特徴は、1つ前の特徴と密接に関連している。長期にわたって株主価値を構築するために一貫して資本を投下する取締役会と経営陣を擁する企業を、バフェット氏は探し求めている。

 注意散漫になりがち、自分の帝国を築こうとする、買収で資金を浪費する、株式を発行して株主価値を希薄化させる、といった性質を持つ経営陣のいる企業に、バフェット氏は近づこうとしない。

 この考え方は、バークシャー・ハサウェイ自体の経営方法にも大きな影響を与えている。

 バフェット氏は、1986年に同社がプライベートジェット機(The Indefensible(訳:弁解の余地なし)というニックネーム)を購入したことについて、彼はややきまり悪そうに書いているが、最終的には、このジェット機によって移動が格段に快適かつ効率的になったことを評価するようになった。

 また、バークシャーの合理化されたコーポレートスタッフと、各株主により大きな持ち分を与えるうえで、節税効果の高い方法である自社株買いの価値についても、バフェット氏は頻繁に書いている。

 バークシャー・ハサウェイの投資先の例を挙げよう。

  • コカ・コーラは、1984年に初めて自社株買いプログラムを導入して以来、36億株の普通株を平均96ドルで買い戻している(2023年12月31日現在)。

 

  • ワシントン・ポスト社について、バフェット氏は低価格での自社株買いを称賛している。

 

  • キャピタル・シティーズ/ABC(現在はウォルト・ディズニーの傘下)について、バフェット氏はその思慮深く効果的な買収戦略を称賛している。

 

  • アップルは過去10年間で約6,000億ドル相当の自社株を買い戻している。

 

<財務諸表を「役立たずよりひどい」と批判する理由>

原則4:実質的な収益力と財務力

 バフェット氏はしばしば、監査済み財務諸表の限界について書いている。特に良い言葉をここに引用しよう。

 「私はただ、経営者も投資家も同様に、会計上の数字は企業価値の始まりであって終わりではないことを理解しなければならない、と言いたいだけだ」 ──ウォーレン・バフェット

 彼は2023年の株主宛書簡で、報告された純利益の数字を「役立たずよりひどい」と揶揄し、鋭く批判した。

 彼が公表財務実績に懐疑的な理由は、主に2つある。

 第一に、それは(年次であれ四半期であれ)企業業績のスナップショットにすぎない。第二に、会計上の利益は、実現していないキャピタルゲイン(値上がり益)やキャピタルロス(値下がり損)、合併や買収、税制の方向転換やその他の問題によって、しばしばゆがめられる可能性がある。

 こうした問題を回避するため、バフェット氏はむしろ、根本的な収益力と財務力を持つ企業に注目する。

 彼が好む指標は営業利益で、非現金在庫コスト、減価償却費、のれん代償却費、繰延税金などの項目を除外している。また、自己資本利益率やフリー・キャッシュフローなどの指標も用いる。

 バークシャー・ハサウェイの投資先の例を挙げよう。

  • ワシントン・ポスト社は、購読料ビジネスモデルと低負債によって利益を上げた。

 

  • ガイコは最低水準のコスト構造を持ち、フロートのメリットを享受している。フロートとは、保険会社が前払い金を受け取り、保険金支払いまでの期間に運用できる資金のことである。

 

  • 米鉄道会社バーリントン・ノーザン・サンタフェ(BNSF)は多額の設備投資を必要とするが、全米の人々や企業にとって不可欠な基本的サービスを提供している。

 

  • チョコレートで知られる菓子メーカー、米シーズキャンディーは低コスト構造で、同社製の箱入りチョコレートには数百万人ものリピーターがいる。

 

  • 米ミッドアメリカン・エナジーは、アイオワ州、イリノイ州、ネブラスカ州、サウスダコタ州で事業展開する電力会社である。電力事業は規制が厳しく資本集約的であるが、長期的には魅力的な利益を生み出すことができる。

IBMやアップルは例外、バフェット氏が敬遠する業界>

原則5:わかりやすいビジネス

 この特徴は1つ前の特徴に近い。バフェット氏はシンプルでわかりやすいビジネスモデルを重視し、複雑さを敬遠する。

 2011年にIBM、2016年からはアップルの株を購入するようになったものの、彼は長年テクノロジー株を避けてきた。その他の進化が急速な業界、たとえば航空会社、製紙会社、投資銀行なども敬遠してきた。

 バークシャー・ハサウェイの投資先の例を挙げよう。

  • カミソリ世界最大手で知られるジレット(現在はP&G傘下)は、バフェット氏が「我々が好むタイプ」と評した企業だ。ジレットには、頻繁に買い換える必要のある標準化された製品があり、それがブランド信仰とリピート購入につながっている。

 

  • シーズキャンディーも同じく、キャンディ(主にチョコレート系)を製造し、販売するというシンプルなビジネスを展開している。

 

  • 米家具メーカーのネブラスカ・ファニチャー・マートは、ロシア移民のローズ・ブリュムキン氏が1937年に創業した。(正式にはミセスBとして知られる)ブリュムキン氏は、自社のビジネスモデルを「安く売り、真実を伝える」と表現した。

 

<「シンプルだが簡単ではない」からバフェットが提唱する方法>

  1. エコノミックモート
  2. 優れた経営陣
  3. 思慮深い資本配分
  4. 実質的な収益力と財務力
  5. わかりやすいビジネス

 ここで述べた5つの特徴は、難しい理屈ではなく、一見単純に思われるかもしれない。

 バフェット氏自身、投資を「シンプルだが簡単ではない」と表現している。個人投資家であれプロの投資家であれ、これらの教訓を適用してバークシャー・ハサウェイの実績を再現できる可能性は極めて低い。

 事実、バフェット氏はほとんどの投資家にとって最良の選択として、低手数料で幅広く分散投資されたインデックスファンドを提唱している。しかし、個別株のリスクを取ることをいとわない投資家にとっては、上記の5つの特徴に注目することが優れた出発点となるだろう。

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