保有すべき持続可能なベスト企業:2025年版

長期的な優位性をもたらすESG管理手法を備えた企業ベスト3

 

Emelia Fredlick モーニングスター シニア・エディター 

Leslie P. Norton モーニングスター サステナビリティー・エディトリアル・ダイレクター

 

「エコノミック・モート(経済における濠)」はウォーレン・バフェットが用いた概念だ(城の濠のように競合他社が攻めにくい特性のこと)。「広い」モート(濠)を備えた企業は、優れた競争優位性に守られた手ごわい競争相手である。この競争優位性に加えて、事業の持続性を脅かす「ESG(環境・社会・ガバナンス)リスク」について堅実な管理をしている企業となれば、とりわけ魅力的であろう。つまり、耐久性と持続可能性(ESGとも呼ばれる)は、ごく自然に対を成す概念だと言えよう。ESGは、従来の金融では明確に説明されなかった長期的なリスクを注意深く監視するものと言える。

 

企業は各業界特有の要因が影響するため、あらゆる企業が何らかのサステナビリティ・リスクに対峙している。たとえば石油・ガス企業は環境問題にさらされる可能性が高く、消費者向けテクノロジー企業はデータ・プライバシー侵害などの社会的リスクにさらされることがある。モーニングスターの調査によると、実際にESGリスクが最も高いのはエネルギーと公益事業であり、最も低いのはテクノロジーと不動産業である。

 

 

サステナビリティに取り組む企業の姿勢をみると、こうした長期的リスクをどのように予測し、対処しているかが分かる。ESGの問題への対処を誤ると、企業は長期的に持続可能な利益を得る能力が損なわれ、莫大な経済的コストが生じる可能性がある。

 

モーニングスター・サステナリティクスは「サステナリティクスESGリスク評価」によって、このリスクを測定している。評価項目のうち「エクスポージャー」はESGリスクに対する企業の脆弱性を、「マネジメント」は特定のESG問題を管理するために企業が取った行動を示す。この2つの主要因を考慮し、1つのスコアに統合して評価する。数値が低いほどリスクは小さく、高いほどリスクが大きいことを示している。

 

 

下表は、モーニングスターの「2025年に保有すべきベスト企業」に挙げられた企業の中から、サステナリティクス ESGリスク評価に基づいて、ESGリスク評価が「無視できる」または「低い」企業を抜き出したものだ。

 

 

ただし、これらの企業については、バリュエーションを考慮していない点には注意が必要だ。このリストは、長期的に成功するための基準を重視したものだ。そのため、これらの企業すべてが現在買い時であるとは言えないが、長期の視点に立った素晴らしいウォッチリストとなるだろう。

 

 

以下は、ESGリスク評価のスコアでランク付けされた88社のリストだ。ESGリスク・スコアが0.00~9.99の企業は「(ESGリスクが)無視できる」レベル、10.00~19.99は「(ESGリスクが)低い」企業である。

 

 

88社のリストをpdfで見る

 

※ Morningstar.comのStockページ・個別株式の「Sustainability」タブで、モーニングスターがカバーしている企業のESGリスク・レーティングを見ることができます。

 

 

以下はESGリスクがもっとも低かった3つの企業についてのコメントである。

 

 

1. RELX RELX

英国に本社を置くRELX社は、あらゆる業界のプロフェッショナル向けにビジネス情報、分析、意思決定ツールを提供するグローバルなプロバイダーである。同社は主に、厳選された情報データベース、分析や、専門学術誌へのアクセスを作り上げ・販売することで収益を上げている。

 

 

モーニングスターのシニアアナリスト、ロブ・ヘイルズは、無形資産、スイッチングコスト(他製品への切り替えにくさ)、コスト優位性に基づき、モーニングスター・エコノミック・モート・レーティングを「広い」と評価している。

 

 

サステナリティクスは、同社のESGリスクマネジメント評価を「強い」としている。RELXにはESGと企業責任のグローバル責任者がおり、取締役会に最新情報を提供し、主要なESG課題に関して上級管理職と連携している。2022年度、RELXのCEO(最高経営責任者)とCFO(最高財務責任者)の年間インセンティブには、炭素削減や社会的責任のあるサプライヤーに関連する目標を含む非財務的指標に関する業績が含まれていた。

 

 

RELXの収益は主に電子形式の製品およびサービスによるものであるため、その主なリスクの1つは、データ・プライバシーおよびセキュリティ・リスクの高まりにさらされることである。EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation)のようなデータ・プライバシーに関する法律や規制を遵守しなかった場合、訴訟や規制当局による罰金が発生する可能性がある。さらに、サイバー攻撃によって業務が中断され、多額の修復費用が発生する恐れもある。

 

 

2. キーサイト・テクノロジー KEYS

キーサイト・テクノロジーは、通信テストおよび測定ソリューションのリーダー企業である。ハードウェア、ソフトウェア、サービスを通じ、市場で最も強力かつ広範な通信テスト能力を有していると考える。

 

 

モーニングスターのアナリスト、ウィリアム・カーウィンによると、同社がエコノミック・モート・レーティング「広い」を獲得しているのは、「試験・測定機器とソフトウェアの設計における無形資産と、ソリューション・ポートフォリオのスイッチング・コスト」に起因している。

 

 

また、キーサイトのESG報告やESG問題の監視がしっかりしていることから、サステナリティクスは同社のESGリスクマネジメント評価を「強い」としている。サステナリティクスは、同社が強力な内部告発プログラムと環境問題についての管理方針を実施し、堅実な社会的サプライチェーン基準を採用していることを指摘している。キーサイトにとっての最大かつ重要なESG課題は、コーポレート・ガバナンスの分野であるが、この課題の影響度合いは、同業他社と同程度の水準にあると考えられる。

 

 

Danaher DHR

ダナハー社は、主にライフサイエンスや診断を手掛ける産業に対する、科学機器および消耗品のを製造に注力している。サイティバ(旧GEバイオファーマ)を含む買収企業の中核的成長を加速させることを目指して、研究開発やマーケティング関連の投資を行っている。

 

 

モーニングスターのシニア・アナリスト、ジュリー・アッターバックは、ダナハーは無形資産とスイッチング・コストを競争力の源泉としており、エコノミック・モート・レーティングは「広い」と評価している。

 

 

サステナリティクスは、ESG関連問題を取締役会が監督している体制を評価し、ダナハーのESGリスク管理評価を「強い」としている。「これらの問題が同社のコア事業戦略に統合されていることを示唆している」と言う。

 

 

更に、ダナハーには強力な製品・サービス安全プログラムがあり、全従業員に製造慣行に関する定期的な研修を義務付けている。

 

 

ダナハーにとって最大のESGリスクはコーポレート・ガバナンスの分野だが、これはラボラトリー機器・サービス業界の平均的な影響度と同水準である。この業界ではまた、製造過程における排出分や廃液、廃棄物や有害大気排出についてリスクが存在している。ダナハーが抱えているESGにおける最大の論争もこの分野であり、子会社の工場から生じた汚染物質が現地の地下水を汚染したことに関するものである。

 

 

サステナブル企業でも論争は起こり得る

このリストに掲載されているからといって、その企業のサステナビリティへの取り組みが完璧であるとは限らない。

 

 

例えば、サステナリティクスはエクスペリアン(EXPGY)のESGリスク評価を総合的に「低い」としているが、米国とエクスペリアンの海外子会社で発生した複数のデータ・セキュリティ事件によって、サステナリティクスによる論争に関する(Controversy)評価は「重大」となっている。このような事案が頻発のせいで、同社の経営陣は株主や顧客からの信頼を失う可能性があり、経営リスクと風評リスクが高まっている。

 

 

それでもエクスペリアンがまだサステナブル企業のリストに名を連ねているのは、データ・プライバシーとサイバーセキュリティに関するプログラムの改善に向けて正しい道筋を歩んでいるからである。同社は、ベストプラクティスである米国サステナビリティ会計基準審議会への報告を開始しており、安全なデータ管理を保証するために品質管理システムの改善を図ってきた。また、企業倫理と製品ガバナンスの分野でのリスクは極めて低いと評価されている。

 

 

このリストは、バリュエーションではなく、サステナビリティ、つまり長期的な持続可能性に 関するものであることにご留意いただきたい。この分野のガイダンスとしては、Morningstar US Sustainability Moat Focus Indexを参照されたい。ただし、この観点からは、ESGリスクの低い企業でエコノミック・モート・レーティングが「高い」企業 であっても、すべての銘柄が現時点で買い時とは限らない。それでも、長期的なESGリスク管理に関心のある投資家にとっては、このリストは注視する価値があるだろう。

 

 

※ 本記事は、モーニングスターが発表した2025年版「ベスト・カンパ ニー・トゥ・オウン」に基づいている。選定方法についてはこちらをご参照いただきたい
※ 当記事の筆者は当記事に登場する株式を保有していない。