150年の株式市場で何度も起きた暴落から学ぶべきこと
回復までにかかる時間や下落の衝撃は様々だが、暴落は何度もやってくる
それでも市場は常に回復し、やがて新たな高値を更新してきた
Emelia Fredlick モーニングスター シニア・エディター
COVID-19ウイルスが引き起こした市場低迷から5年が経過した。2020年3月9日の初期の劇的な暴落で米国株式市場は1日で約8%下落したが、最終的にはその暴落からわずか4か月で株価は暴落前の水準に戻り、過去150年間で最も迅速な回復を遂げた。
その後2年も経たない2021年12月、ロシア・ウクライナ戦争、激しいインフレーション、供給不足が引き金となって、株式市場はさらに大きな暴落を経験した。この暴落からの回復には、前回の4倍を超える約18か月の時間が必要だった。
こうした近年の市場暴落を経て、私たちは何を学んだだろうか?
<市場の暴落から学んだこと>
- 株式市場の回復にどれくらい時間がかかるかを予測することは、不可能である。
- 市場が暴落したときにパニックに陥って株式を売却しなければ、長期的には報われる。
コロナウイルスによるパンデミックが引き起こした暴落や、ロシア・ウクライナ戦争、インフレーションによる株式市場の低迷は、記憶に新しい。しかし、これらの事象が示す教訓は、過去のすべての歴史的な市場暴落にも当てはまるものだ。個々の暴落は回復までに要する期間や打撃の深刻さ(震度・マグニチュード)に違いはあるものの、株式市場は常に回復し、新たな高値を更新してきたのである。
過去150年間に起きた市場の暴落から私たちが学んだことを、もう一度思い出してみよう。それは将来起きるかもしれない暴落への、重要な心構えについて示唆を与えてくれるはずだ。
<市場暴落はどのくらい頻繁に起こるのか?>
市場を震撼させた暴落の数は、どれだけ過去に遡るか、そして「暴落」をどのように定義するかで決まる。本稿では、「市場暴落」という用語は、一般的に20%以上の下落と定義される「弱気相場」と同義で使用している。
以下の図表では、それぞれの歴史的な弱気相場の始まりから終わりまでの期間が青い水平線で示されており、各期間の始まりであるピーク累積価値から、累積価値が以前のピークに回復するまでを示している。
インフレーションの影響を考慮すると、もしも1871年に米国株式市場指数に1ドル(1870年の米ドル)投資していたならば、2025年1月末までにその1ドルは3万1255ドルに成長していたことになる。この、1ドルのとてつもない成長は、長期的に投資を続けることで生み出される莫大な利益を強く印象づけてくれるだろう。
そうは言っても、その約150年という長い期間の株式市場は山あり谷ありで、資産の増加は決して一直線の安定したものではなかった。その間に19回の市場暴落があり、深刻さや回復までに要した期間は様々であった。
最も深刻な市場暴落のいくつかは下記のものだ。
- 1929年の暴落から始まった大恐慌:この79%の株式市場の損失は、過去150年で最悪の下落であった。
- ドットコム・バブルの崩壊と大不況を含む「失われた10年」:ドットコム・バブルの崩壊後、市場は回復を見せたが、2007年から09年にかけて暴落前の水準に戻ることはなかった。その水準に達したのは2013年5月で、初期の暴落から12年以上が経っていた。この下落は、過去150年で2番目に大きいもので、最終的には54%の含み損が生じていた。
- インフレーション、ベトナム、ウォーターゲート事件などによる暴落:1973年初頭に始まり、最終的に9%の株式市場の下落をもたらした。この弱気相場が生じた要因には、ベトナム戦争(第二次インドシナ戦争)に対する市民の不安やウォーターゲート事件に加え、OPECの石油禁輸による高インフレーションが含まれる。この時の市場の低迷は、最近のインフレーションの急襲やロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争のような問題を考慮すると、今日の環境とよく似ていると言えるであろう。
これらの例は市場暴落の頻度をも、示している。個々の出来事はそれが起きた時点では「特別に」重要な事件であるが、実際には暴落は10年に一度程度発生する定期的な事象であることが分かる。
<市場暴落の深刻さをどのように評価するのか?>
それでは、市場の暴落の深刻さを評価するにはどうしたらよいのだろうか?それを示す試みがカプランの「痛み指数」である。このフレームワークは、「下落の度合い」と「資産の累積価値が暴落直前の水準に戻るまでにかかった時間」のふたつを勘案したものである。
その仕組みは次の通りである:「痛み指数」は、ピーク(下落直前の資産価値)から同じ水準に回復するまでをつなぐ直線と累積価値を示す折れ線に囲まれた部分の面積と、1870年以降の最悪の市場下落である1929年の暴落、いわゆる大恐慌の時の同様の面積とを比較したものだ。つまり、1929年の大恐慌の時を「痛み指数100%」として、他の時期の市場暴落のパーセンテージはその深刻さのレベルにどれだけ近いかを表している。
例えば、キューバ・ミサイル危機の際、市場は22.8%の下落を経験した。1929年の暴落は79%の下落をもたらしたので、下落は3.5倍の大きさである。この下落幅そのものも重要であるが、大恐慌では市場がその谷底から以前の水準まで回復するのに4年半かかったのに対し、キューバ・ミサイル危機では谷底からの回復に1年もかからなかったことを考慮する。
したがって、この回復までの時間を考慮に入れると、大恐慌の最初の部分はキューバ・ミサイル危機の低迷よりも28.2倍悪かったことを痛み指数は示している(※痛み指数を小数点以下2桁で算出しているため、表中の数字での計算とは差異がある)。
以下の表は、過去150年の中で起こった弱気市場を、市場の下落の大きさ(深刻さ)の順に記載し、表の右側にはその痛み指数と順位などを示している。
ご覧の通り、2021年12月のロシア・ウクライナ戦争、激しいインフレーション、供給不足による市場低迷は、このリストで11位にランクインしている。この市場暴落を表の他のものと比較すると、その9か月間で28.5%の株式市場の下落は、キューバ・ミサイル危機や1800年代後半/1900年代初頭のいくつかの低迷よりも大きな痛みを伴うものであったことがわかる。
そして、2020年3月の新型コロナウイルスによるパンデミックが引き金となった暴落は、実際にはこれら19回の暴落の中で最も痛みが少ないものだった。これは、その後の回復が迅速だったおかげである。低迷は約1か月で19.6%のという急激で大きい下落だったが、株式市場は最終的にわずか4か月後に以前の水準に回復した。
<過去150年の最も深刻な市場暴落・ワースト5>
過去150年の中で最も深刻な市場低迷の影響をよりうまく評価するために、各市場暴落の始まりに100ドル投資した場合の道筋を追ってみよう。
【第一次世界大戦とインフルエンザ;下落4位/痛み指数2位】
1911年6月にピークを迎えた後、スタンダード・オイル・カンパニーやアメリカン・タバコ・カンパニーのようなコングロマリットの解体によって市場はすぐに下落し始め、1914年7月に第一次世界大戦が勃発した時には、この低迷の最悪の部分が始まった。ここで100ドルを投資したとしよう。
株式市場はその後数年間下落を続け、その100ドルの投資は49.04ドルの価値にまで下落し(谷底)、1918年のインフルエンザ・パンデミック後まで回復しなかった。
【1929年の暴落と大恐慌;下落/痛み指数ともに1位】
1929年の暴落直前に株式市場に100ドルを投資した場合、その価値は1932年5月までに21ドルに下落していただろう。この暴落は、第一次世界大戦後の経済ブーム(過信、過剰支出、価格の過剰インフレーションをもたらした)が最終的に持続不可能になったときに発生し、市場が回復するのに4年以上かかった。
【世界恐慌と第二次世界大戦;下落/痛み指数ともに5位】
世界恐慌の最初の下落は、一時回復したように見えたが長くは続かなかった。株式市場は1936年11月までに1929年の水準まで回復したが(つまり、私たちの投資は100ドルの価値に回復し、わずかではあるが100.23ドルに上昇した)、1937年2月に再び下落し始めた。この下落は主に、フランクリン・ルーズベルト大統領の財政政策の変更に起因し、銀行の準備金レベルの縮小や社会保障税のような要因が第二次世界大戦の影響と相まって市場の低迷を招いた。
100ドルの投資は1938年3月に52.49ドルまで下落し、最終的に1945年2月にようやく104.88ドルまで回復した。
【インフレーション、ベトナム、ウォーターゲート事件;下落3位/痛み指数4位】
1973年、中東のOPEC加盟国が米国に石油禁輸を課し、深刻なインフレーションを引き起こした。ベトナムからの米軍撤退に伴う混乱やウォーターゲート事件後の政治的不確実性も加わり、この期間に株式市場は51.9%の下落を見た――これは100ドルの投資を48.13ドルにまで下げたことになる。この低迷からの回復には、9年以上かかった。
【失われた10年(ドットコム・バブル崩壊と世界金融危機);下落2位/痛み指数3位】
ドットコム・バブルの破裂は、インターネットとテクノロジー企業の株価が異常な高値に膨らみすぎた時に始まり、それ以前に得た利益のほとんどを失った。
2000年8月に100ドルを投資したとすると、その価値は52.76ドルに下落していただろう。7年後、株式市場はほぼ以前の水準に戻りかけていた(95.25ドル)が、住宅バブルが崩壊し、モーゲージ担保証券が雪崩を打って値崩れして大不況を引き起こし、その投資は46ドルまで下落した。この12年間の期間全体で54%の含み損が生じていたのである。
市場は最終的に2013年5月に大不況から以前の水準まで回復したが、その後10年を経ずして、またコロナウイルスの市場暴落と2021年後半の低迷が控えていた。
これら150年の間にはその他にも、これらの例よりはもう少し短く、下落も小さい暴落がいくつもあった(そのうちの一つは痛み指数19位で、COVIT-19パンデミックより上だった)。
セオドア・ルーズベルト大統領が大企業を解体しようとしたことによって引き起こされたリッチマンのパニックを考えてみよう(下落15位/痛み指数13位)。あるいは、ベアリングス・ブラザーズ危機:ベアリングス銀行のアルゼンチンへの多数の投資が、1891年に同国がクーデターに直面したときに損失を被った。
このように株式市場は何度も荒波に見舞われるものの、それでも2000年の初めに100ドルを投資したならば、その100ドルは2025年1月末時点で300ドル以上の価値になっていた。
もしもその100ドルが1870年に投資されていたならば、今日では312万5500ドルの価値があるだろう。
<株式市場の荒波を乗り切るために、学ぶべきこと>
もうお分かりだろう、「この歴史は、変動の激しい市場をどのように乗り切るかについて何を教えてくれるのか?」
何よりも、『その変動は、乗り超える価値がある』ということだ。
2020年前半の数か月のパンデミックで暗く覆われたストレスの多い月の後、市場は回復した――1930年代初頭の79%の下落をみせた大恐慌の後と同様に。
そしてそれが市場について知るべき本質である:市場暴落は発生時には常に恐ろしいものに感じられるが、その瞬間にあなたがマーケットの小さな調整に直面しているのか、次の大恐慌の銃口を見ているのかを知る方法はない。だが、たとえ次の大恐慌の入り口を目の当たりにしているとしても、市場が最終的に回復することを歴史は示している。
ただし、回復への道のりは非常に不確実で、どこまで下がり、いつ回復するのかは分からない。最善の準備方法は、たとえ回復まで長い時間がかかっても乗り越えることができるように、時間の枠をたっぷりとり、自分が耐えられるリスク水準に見合った十分に分散されたポートフォリオを保有することである。
長期的に市場に投資し続けることができる投資家だけが、暴落の荒波を耐え抜いたことへの価値ある報酬を手にすることができるのである。
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本稿は2025年3月6日付モーニングスターの記事「Stock Market Crashes: A Look at 150 Years of Bear Markets | Morningstar 」をモーニングスター・ジャパンが翻訳・再構成したものです。原文と翻訳に差異がある場合は原文が優先されます。
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この記事には、モーニングスター・カナダの元リサーチディレクターであるポール・カプラン博士、CFAのデータと分析が含まれています。また、モーニングスターのデータジャーナリストであるベラ・アルブレヒトと編集マネージャーのローレン・ソルバーグも本記事の寄稿に貢献しています。
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著者または著者は、この記事で言及された証券の株式を所有していません。