長期にわたる介護費用が心配ですか? 対策を考えてみましょう
4つ目のバケツ(ポートフォリオ)が役に立つかもしれません
自分自身のためにお金を使うにせよ、愛する人や慈善団体に資産を残すにせよ、退職者が自分のお金を最大限有効に使うことをためらう原因は、長期にわたって受ける介護のために晩年に多額のお金が必要になるかもしれないという恐怖に他なりません。
私が講演で長期介護についてちらりと触れただけでも、会場は大声を上げる人で騒ぎになるようです。人々は、なぜ介護保険に加入しないことにしたのか(通常は、家族がひどい請求経験をしたため)についての話を共有したがり、保険に加入した人は保険料の高騰について不満を漏らしています。しかし、長期介護のために保険を放棄することを決めた人々についての教訓的な話もあります: 保険が支払われないため、親が人生の終わりに金融資産を使い果たさざるを得なくなった、あるいは、成人した子供が介護費用を提供してどんなふうに燃え尽きてしまったか、という話です。誰にでもストーリーはあるものの、良い話をする人はめったにいません。
私の逸話以外にも、長期介護費用の支払いが高齢者の心に重くのしかかっていることを、データは裏付けています。AARP(米国退職者協会)が高齢者を対象に行った調査では、政府が長期介護の費用を負担してくれるかどうかについて人々の間に誤解が広がっていることや(実際はしてくれません)、介護費用の支払い方法についても懸念があることがわかりました。この調査では、回答者の59%が、介護費用が足りなくなることを心配していると回答しています。同様に、米国アクチュアリー会(SOA)が実施した2021年の調査では、「長期介護費用の支払い」は、退職前の人々が「退職後の生活で懸念する事柄」において「インフレーション率」に次いで第2位でした。
2020年の米国国勢調査によると、現在米国で介護保険に加入している人はわずか700万人で、60歳以上の人口は7500万人を超えていることから、おそらく大勢の人が多かれ少なかれ退職後の計画に長期介護費用が与える影響を心配していることでしょう。
そのような自己資金を調達する人のために、私は老後の生活資金として使う予定のポートフォリオとは別に、専用の長期介護費用向け資金を確保するというアイデアが気に入っています。資産の一部を区別して別のバケツに入れて長期介護に割り当てることで、貴重な安心感を得られる上に、残りのポートフォリオから合理的な割合で支出(または贈与)する判断ができます。もし退職者が長期介護に資金を使わずに終われば、それは相続人や慈善団体に残すことができます。
4つ目のバケツ?
私はよく、退職ポートフォリオ計画のバケツ戦略について書いてきましたが、これは退職者が予想される退職ポートフォリオの引き出しに基づいて資産を3つのバケツに分けるものです。最初のバケツは、1〜2年分の生活費をカバーし、主にマネーマーケットファンドや銀行口座などの超安全資産を保有します。2番目のバケツは、さらに5年から8年分のキャッシュフローのためのもので、格付けの高い(低リスクの)債券を保有します。3番目のバケツ、つまりポートフォリオの残りの部分は、主にグローバルに分散された株式ポートフォリオで構成します。この考え方の利点は、ポートフォリオに他の要素がないため、退職者が現金から支出を引き出すことができることです(2022年を参照)。そして、もし株式市場が持続的な低迷を経験ししても、現金と債券がクッションの役目を果たすはずです。
しかし、長期介護費用をカバーする必要がある場合に備えて更にクッションを維持したい人のために、このフレームワークに4番目のバケツを組み込むこともできます。それは簡単に聞こえますが、長期介護のバケツにどれだけの資金を入れるのか、どのような種類の投資をするか、どこでそれを保有するのかなど、現実的な問題が残ります。一つずつ見ていきましょう。
いくら振り向けるのか
長期介護に関する統計は、長期介護費用向けの4番目のバケツのサイズを考える参考になります。ここでは2つの重要な項目に焦点を当てる必要があります: あなたが受けたいケアの種類(たとえば、在宅ケアなのか施設でのケアかなど)の予想費用と、そのケアを受ける期間がどのくらいになるかの予想です。
GenworthのCost of Care Surveyは、希望するケアの種類とケアを受ける地域に基づいて想定されるおよその介護費用水準を把握するのに役立ちます。たとえば、フロリダ州の居住者は、熟練した介護施設の個室に月額約1万1406ドル(約174万円)、または年間13万6872ドル(約2086万円)の支払いが想定されます。そして、自分の属するコミュニティで入所を希望する施設の介護費用について問い合わせるか、在宅介護者を提供する地元の機関に照会することによって、さらに詳細な想定をすることができます(在宅介護を希望する場合、別途、食費や住居・光熱水道費など他の生活費がかかることに注意してください)。
介護期間については、男性2.2年、女性3.7年という一般的な介護ニーズが出発点となります。しかし、ファイナンシャルアドバイザーで医師でもあるキャロライン・マクラナハンは、これらは平均値であると警告し、健康な人はより長い介護期間となる可能性が高いと指摘しています。非常に健康な顧客に対して、彼女は5年分の長期介護費用を標準としています。
ありがたいことに、非ポートフォリオ収入(私たちのほとんどにとって社会保障)は、長期介護の環境にいるときを含め、私たちの生涯を通じて収入として支払われ続けます。これにより、長期介護費用として準備しなければならない自己資産はより少なくて済みます。
簡単な例を挙げると、フロリダ州の独身男性が長期介護用の費用を準備するためのバケツとして基金を保有したいと考えているとします。彼は、本格的な介護費用として27万4000ドル(約4178万円)を使うことができました(2年分のケアで年間13万7000ドル)。しかし、彼が社会保障から年間4万ドル(約610万円)を受け取っている場合、それに応じて長期介護用バケツのサイズを19万4000ドル(約2958万円)に減らすことができます。これは明らかに正確な科学ではありません、なぜなら彼が介護を必要とするかどうか、またはそれがどれくらい長く続くかは誰にもわからないからです。しかし、これが試算の第一歩です。
長期介護用バケツとして確保するために彼の使用可能なポートフォリオから19万4000ドルを引き出すことは、明らかに「心の安らぎのための資産配分」です。しかし、実際にお金の使い方には影響します。たとえば、彼の資産が 100 万ドルで、支出に 4% のガイドラインを適用しているとします。長期介護前のバケツで、彼のポートフォリオの引き出しは年間4万ドル(約610万円)です。しかし、彼の支出可能なポートフォリオから長期介護用バケツの資金を差し引く、3万2240ドル(約491万円)になります。つまり何物にも対価が必要で、無料でありつけるランチは無いのです。
どんな投資をするか
たいていの場合、長期介護が必要になるのは人生の最終章に近づいたときで、介護施設に入居している人の平均年齢は81歳です。したがって、あなたはあなたの年齢と平均的な長期介護年齢とを考え合わせて、お金をどのように投資するかを決める目安にすることができます。もし65歳で退職したばかりの場合であれば、長期的な時間軸を念頭に置いて資産配分を行い、バランスの取れたポートフォリオ、あるいは株式への配分が多めのポートフォリオを保有することは理にかなっています。結局のところ、15年以上の時間軸があり、長期介護が必要となる頃にはインフレによって今より大幅にに必要な費用が膨らむ可能性があります。資金には成長が必要なのです。
一方、もし70代半ば以上の方であれば長期介護資金用の資産は、資産配分をより保守的に維持することが推奨されます。特に現金類似商品や高格付債券で、以前より高い利回りが期待できるようになった今は、そうすることが可能です。いずれにせよ、長期介護市場の一部、特に在宅介護ではコストが急速に上昇しているため、インフレに対して優れた防御策を講じるポートフォリオを構築するようにしてください。例えば、CMS(Centers for Medicaid and Medicare Services/米国保健社会福祉省の公的保険制度運営センター)は、在宅医療の費用は2029年まで毎年7%の割合で増加すると推定しています。
どこに投資するか
あなたの介護バケツの「どこ」は最も簡単な質問です。私は、いくつかの重要な理由から、従来の税金繰延口座を好む傾向があります。1つ目は、それが、今日退職間近の人やすでに退職しているほとんどの人が資産の大部分を保持している口座だからです。
従来のIRAもまた、税務の観点からも理にかなっています。従来のIRAまたはその他の従来の税金繰延口座では、税引前拠出金と投資収益(つまり、ほとんどの税金繰延口座の資金の大部分)は、引き出し時には所得課税対象です。しかし、多額の長期介護費用を負担している人が、医療費の控除額の上限を大幅に超えるのはよくあることです(2024年の控除対象額は、調整後総所得金額の7.5%)。つまり、医療費控除はIRAの引き出しに支払うべき税金を相殺することができます。
また、ほとんどの介護費用は、必要な最低分配金(73歳以上の人々の従来の税金繰延口座に適用)が適用される、人生の後半に発生することも注目に値します。つまり、いずれにせよ、このライフステージでは、お金が口座から出て課税されることになりますが、医療費控除は税負担を軽減(相殺)するのに役立ちます。
介護資金のために特別の口座を維持する必要はありませんが、介護費用としてのバケツが存在し、それがどこにあるのかを愛する人に知らせておくことが重要です。
バックアッププラン
長期介護費用としてのバケツに全力を注ぎたくないのであれば――そして私が以前に引用した年間介護費用の数字が不快であることは間違いありませんが――それは問題ありません。特にバックアップとしてそよく考え抜いた資産がある場合は、たとえ少額でも心配を和らげるのに役立ちます。ホームエクイティ(たとえばリバースモーゲージなど)や「使用可能な」ポートフォリオにある残りの資産などがそれにあたります。(※一部の引き出し戦略は、最新の引き出し率の研究で説明したように、他の戦略よりも資産を残すのに優れています。)
そしてもちろん、メディケイドは、米国で長期介護費用の最大の支払者です。介護は認知症に関連していることが非常に多いため、財政計画がより厳しい人は、認知能力が高い場合が多い長期介護の初期には長期介護用の資産を使うことを検討し、必要に応じてその後メディケイドが提供するケアを受けることができます。理想的な計画ではありませんが、少なくとも計画を立てることができます。◇
(翻訳:モーニングスター・ジャパン 島田知保)
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※本稿は2024年11月21日付米国モーニングスターの下記の記事をモーニングスター・ジャパンが翻訳したものです。英文は下記よりご覧いただけます。原文と翻訳に相違がある場合は、原文が優先されます。
Worried About Long-Term-Care Expenses? Let’s Do Something About It. | Morningstar
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本稿は米国の状況に基づく解説です。日本とは制度、環境、物価など異なりますが、「4つ目のバケツ」と介護費用の自発的な準備の参考として掲載しております。